いつまでたっても部下の問題がなくならないのはなぜか

ある調査によると、今年も管理者の悩み第一位は「部下の育成」だったという。しかも5年前よりも10%以上増加し、半数超えとなっている。「部下は成長しているものの、まだ理想とは程遠い」と思う上司はあなただけでない。では、なぜ部下の問題は、いつまで経ってもなくならないのだろうか。その理由を考察した。

お母さんと中3息子の会話 – テストの点数編 –

これは実話に基づいた例である。なぜ部下の問題なのに、家庭の話?と思われるだろうが、後につながるので、読んでみてほしい。

さて、このご家庭はご夫婦と、お子さんが3人おり、長男(仮に、A君としよう)が中学3年生で受験シーズンに突入しようとしている。

A君は、学区内でトップの進学校を、親友と一緒に目指しており、部活動は野球をやっている文武両道の少年だ。

5月、3年生になって初めての中間テストが帰ってきた。結果は5教科500点満点中480点。あなたならどのように声をかけるだろう?

「すごいな、頑張ったな〜」「次もこの調子で頑張れ」などが思い浮かぶ言葉ではないだろうか。

しかし、あろうことか、お母さんは、このような発言を残したという。

「テストが簡単だったんだね」

・・A君は(また始まったか・・・)と心の中でつぶやき、部屋を後にしたのは言うまでもない。

episode2:夏の期末テスト編

この話には、続きがある。3年生1学期の、大切な夏の期末テストがあった。そこでA君の得点は、390点だったという。

テストの点数だけ見れば、だいぶ下がってしまったように見えるが、実は社会・理科が難しかったらしく、全体的な平均点も低かったのだ。

ということは、お母さんの発言も「テストが難しかったんだね」という励ましを期待するが、このような発言を残したという。

「オマエ、ふざけん(以下自粛」

・・A君は(やはりそうきたか・・・)と心の中で凹みながらつぶやき、部屋を後にした。。

最終章:お母さんのお悩み

そんなお母さんなのだが、実はA君のことで悩みがあると、私に打ち明けてくれた。

部活動や友達とのことかな?などと思ったのだが、予想は全く外れた。

なんと、A君が全然勉強をやる気がないと言うのだ・・!!!

真剣に息子のことに悩むお母さん。最近は特に、夜遅くまで携帯ゲームばかりやっていて、全然勉強に身が入っていないらしい。

390点のときは「このまま勉強のやる気をなくして、希望の高校にも行けず、将来が心配だ」とヤキモキしながら悩みを話をしてくれた。

ちなみに480点のときは「本当にこのまま続くのだろうか。いつか点数が下がってしまい、希望の高校にも行けず、将来が心配だ」とヤキモキしながら悩みを話してくれた。。

前述のエピソードも含めて、お父さんから聞いている私は、(うーん・・なんと声をかけようか)と沈黙のときが流れたのだった・・。

ここまでで、クスっと笑ってしまったあなたは、相当マネジメントセンスが高い。続きを話していこう。

お母さんの気付いていないこと

さて、もしあなたが、Aくんのお母さんの旦那さんならば、どのように突っ込むだろう?

「いやちょっと待て、Aだって、480点とって“簡単だったんだね”と言われて、390点ながらも頑張ったのに、“お前ふざけ・・”と言われたら、やる気なくすだろ」と言うかもしれない。それが夫婦喧嘩の火種となるわけだが、それに関しては割愛させていただくとしよう。

そう、A君のやる気をなくさせて、携帯ゲームに走らせている要因は、お母さんなのだ。

しかし、真剣に(それはもう、愛する息子のために、真剣に!)A君の将来を考えており、「やる気をなくして、希望の高校にも行けず、将来が心配だ(どんな点数であっても!)」と今日も頭を悩ませている。しかし、我々からみると、主演:お母さん、脚本:お母さんという、自作自演の映画をみているような感覚になる。

この解決策は、お母さんが「息子は勉強のやる気がない子だ」という前提を変えて、「息子は勉強のやる気がある子だ」という前提に立って考えることだ。そうすれば、声掛けや協力の仕方が変わる。

しかし、当事者は、見当違いな前提に立ち、問題設定をしては問題解決に躍起になっていることが、よくある。

営業部長と部下との会話- 景気の良い四半期編 –

さて、本題の例に入っていこう。上記とまったく同じ構造で話をしていく。

A社の営業部長と、部下の若手社員、Bくんとの会話である。今年度は、コロナでの冷え込みが徐々に終焉を迎え、海外からの引き合いが増えた関係で、取引先からの発注も多くなってきている。そんな中、第1Qを終え、Bくんは昨対105%の着地となった。

あなたは何と声をかけるだろうか?

「まぁ今期はコロナから回復し始めたからな、たまたまだぞ」

・・・Bくんは(また始まったか・・・)と心の中でつぶやき、会議室を後にしたのは言うまでもない。

「すごいな、頑張ったな〜」「次もこの調子で頑張れ」という言葉は、頭の中で浮かんできただろうか・・。

episode2:景気が悪い四半期編

この話には、続きがある。また3ヶ月が過ぎて第2Qを終えた。そこでA君の成績は、昨対70%だったという。

昨対の数字だけ見れば、だいぶ下がってしまったように見えるが、実はコロナが回復し、一旦需要が落ち着いて、海外からの引き合いも少なく、全体的に発注も減っているのだ。

ということは、部長の発言も「環境的に厳しかったからね」という励ましを期待するが、このような発言を残したという。

「オマエ、ふざけん(以下自粛」

・・B君は(やはりそうきたか・・・)と心の中で凹みながらつぶやき、会議室を後にした。。

最終章:営業部長のお悩み

そんな営業部長なのだが、実はB君のことで悩みがあると、私に打ち明けてくれた。

社内での関係性かな?などと思ったのだが、予想は全く外れた。

なんと、B君が営業に真剣に取り組んでいないと言うのだ・・!!!

息子のことのように、真剣にB君のことに悩む営業部長。最近は特に、仕事が残っているのに先に帰ってしまい、全然仕事に身が入っていないらしい。

昨対70%のときは「このまま仕事のやる気をなくして、一度も目標達成ができないかもしれない、心配だ」とヤキモキしながら悩みを話をしてくれた。

ちなみに昨対105%のときは「本当にこのまま続くのだろうか。いつか売上が下がってしまい、目標達成がでなくなるかもしれない、心配だ」とヤキモキしながら悩みを話してくれた。。

前述のエピソードを社長から聞いている私は、(うーん・・なんと声をかけようか)と沈黙のときが流れたのだった・・。

さて、耳障りの良くない話が続いていると思うのだが、お付き合い頂ければ嬉しい。

営業部長の気付いていないこと

もしあなたが、A社の社長ならば、営業部長に、どのように突っ込むだろう?

「いやちょっと待て、Bだって、1Qは昨対を達成して“たまたまだぞ”と言われて、2Qは環境も悪い中頑張ったのに、“お前ふざけ・・”と言われたら、やる気なくすだろ」と言うかもしれない。

そう、B君のやる気をなくさせて、仕事が残っているのに先に帰ってしまっている要因は、営業部長なのだ。

しかし、真剣に(それはもう、愛する息子のように、真剣に!)B君の将来を考えており、「どうしたら彼は仕事に集中するのだろう?」と今日も頭を悩ませている。・・・しかし我々からみると、主演:営業部長、脚本:営業部長という、自作自演の映画をみているような感覚になる。

この解決策は、もうお分かりだろう。

営業部長が「Bくんは仕事にやる気のない部下だ」という前提を変えて、「Bくんは仕事にやる気のある部下だ」という前提に立って考えることだ。そうすれば、声掛けや協力の仕方が変わる。

しかし、当事者は、見当違いな前提に立ち、問題設定をしては問題解決に躍起になっていることが、よくあるのだ。

問題設定に疑問を持てるかがマネジメントの肝

さて、少々長いエピソードトークにお付き合い頂き、感謝である。

勘のよいあなたならお分かりかもしれないが、なぜ、部下の問題がなくならないのか?という回答をお伝えしたい。

それは「自分が部下の問題の中に含まれていないから」である。

今回の例で言えば「部下が真剣に仕事をしない」という問題に、営業部長は自分を含めていなかった。しかしエピソードを紐解いてみると、自身が部下のやる気を削いでいたことが分かる。

つまり、「自分自身が部下をどう観ているかによって、部下のやる気が決まる」のだ(部下の成績が良いからやる気があり、成績が悪いからやる気がないわけではない)。

すべては問題設定(部下をどう観るか)から、問題解決は始まる。しかし、問題設定がズレてしまっていれば、関係のない解決をする。

多くの管理職は、問題解決に躍起になっているのだが、問題設定が正しいかどうか自体は精査されずに、進んでいる。だから、問題は永遠になくならないのだ。

まとめ

しかしながら、今から急にB君をやる気のある部下として観て、声掛けや協力の仕方を変えられるのならば、そもそも苦労していないだろう。

実は無意識のうちに設定した問題を変えることは、大変難しいものである。

だからこそ、最初の一歩として、「B君のやる気のある理由」や、「売上達成に向けて取り組んでいる要素を探す」などをすることで、段々と、問題設定の偏っている部分のバランスがとれ始める。

最初はこの記事をご覧になった後、1分だけでも紙に書いてみるなどしてもらえると嬉しい。自身の問題設定の偏りの片鱗がみえるはずだ。