【パーパス経営】会社の方向性が明確になれば個人のキャリアは輝く

我々は採用の専門ではなく教育の専門であるのだが、CHROや社長と話をすると、当然、採用の話も出てくる。そこで話される内容は「結果を出すことに執着してしまい、会社にマッチしないが、成果を出せる人材を採用してしまったことがある」ということだ。このジレンマは企業の存在意義を考えると大変難しいテーマであるが、弊社の見解を交えながら、「会社の方向性が明確になれば個人のキャリアが輝く」という結論について展開していきたい。

パーパス経営が流行している背景は

このテーマで話を進める時に、存在意義(パーパス)の話は外せないため、先に説明をしたい。

パーパス経営が流行している背景として、会社を取り巻く環境から整理すると、①世論の要請、②働き手の要請、③資本家の要請の3つがあげられるだろう。この話をメインにすると話が脱線するので詳しくは語らないが、「自然環境・人間環境に優しい存在(会社)であること」「何をする存在(会社)なのかに注目していること」「それらの基準で投資評価を行うこと(ex.ESG投資)」という目線で会社を見る観点が強くなっている。

この流れは、以前から存在しており、日本では1956年に経済同友会でCSR決議が行われている。以降10年周期で大きな企業不祥事やそれに対する批判があり、世論が徐々に変化していった。「産業公害(1960年代)」「オイルショック後の利益至上主義批判(1970年代)」「バブル拡大・地価高騰(1980年代)」「バブル崩壊・企業倫理問題(1990年代)」「相次ぐ企業不祥事・ステークホルダーの台頭(2000年代)」といった事件に対応する形で、現在、パーパス経営というキーワードが出ているのだ。

今までとパーパス経営の違い

今回のキーワードは、「パーパス」であって、会社の根幹にあたる「存在意義」にあたる。また、人的資本経営というキーワードも流行の一つであるが、これも「人を中心とした経営」というテーマで語られることが多い。

逆に言えば、それまでは、会社の存在意義については触れておらず、会社の「行為・行動」に対する価値が問われていた。公害における対応、企業市民としてのフィランソロピー(社会貢献活動)、環境を重視した経営活動などがそれにあたる。

その意思決定はどこから来ているのか

「パーパス経営」という聞こえはとても良いのだが、実際の会社経営にはお金が必要だ。そして、経営を継続するためには資金繰りを続けなければならない。そうしたときに、選択が問われる瞬間がいくつもあるだろう。ここでは、意思決定の根拠をどこに置くのか?という観点で話を進めていく。

CSR(企業の社会的責任)からくる意思決定とは

パーパスの話をする前に、企業市民・CSR(企業の社会的責任)の観点から話を進めたい。極端な例えをすると、明日、倒産するかもしれないところで、インサイダーで得た情報を元に株での利益を生み出すか?指定暴力団と繋がっている危ない所からお金を借りるのか?という選択が出たとする。

こうした究極の選択の時に経営者は何を思うのか。「少しのカネなら、バレないし問題はない」「ヤミ金で借りた金を、自分の力で返そう」などと思うから事件が発生するわけだが、CSRからみれば、社会の一員としての観点が欠けているといえる。インサイダーは株取引のルールを逸脱して、バランスを崩しているし、指定暴力団からのカネの取引は、その取引によって暴力団の勢力を増やす加担をしていることになる。そのため、このような行為が発覚した場合は、会社が吹き飛んでしまう。

パーパスからくる意思決定とは

上記の話が社会とした時に、パーパスは社会とも繋がる話ではあるが、もう少し身近な例として話を進めたい。

例えば「One Team」を会社の根幹のパーパス(志)においたA社があったとする。従業員は40名。売上はトントンで、資金繰りに何度も困っては抜け出すということを行っていた。この状況を脱し、より事業拡大をするための採用を進めていたところ、競合他社で、相当な売上をあげていた者が会社の採用面接にやってきた。

面接をしてみると彼はチームで業績をあげるよりも、個人で動いて業績をあげるタイプだった。また噂によると、彼のチームは成績を上げるものの、部下の離職率がダントツで高く、経営陣に対しても自身の論理で畳み掛けるような口撃をすることを聞いていた。結果、彼の在籍期間は2年が最長で転職を繰り返している様子だった。

もしあなたが、A社の社長だったらば、どのような判断をするのか、真剣に考えてほしい。「彼が入ることで、売上はあがるのは間違いなく、そうすると会社の資金繰りが楽になる。苦労を一緒にしてきた従業員にもボーナスが払えるかもしれない。今までは彼と会社が合わなかっただけだろうから、ウチに入れば合うかもしれないし、採用しても良いのではないか?」などと考えるのも無理はないだろう。

しかし、根幹のパーパスとズレた人物が入ってくることで、組織は荒れてしまうのだ。彼を採用することと、インサイダー取引によって利益を得ようとすること・指定暴力団から借り入れを起こすことは、同様なのだが、それはお分かりだろうか。

自身が敷いたルールに自身が遵守できるか

CSRの場合は「社会のルールに基づいているか」という観点から意思決定が行われていた。パーパスの場合は「会社の決めたルール・価値観に基づいているか」という観点から意思決定が行われている。ルールから逸脱しているという点では同様だ。会社の方向性の矢印を、拡大解釈して大きくしたり、外れた人を引き込んでしまうことは、双方にとって不幸になる。

先程の例であれば、彼は採用せずに、2年おきに転職をしている理由にもよるが、それだけの成果を出せる人材なのであれば起業を勧めることも一つだろう。彼にとって適切な環境があれば、彼は輝くのだ。

売上よりも存在意義から出発する

パーパス経営が最も難しいのは、売上と存在意義の選択にあると考える。実は存在意義から外れた売上と、存在意義の中に入っている売上があるのだが、財務3表からみればそのような内容はどこにも入っていないため、パーパス経営か否かを判断しにくいのが難点だ。

敢えて伝えれば「明日・1ヶ月後・3ヶ月後に資金繰りが危うくなったとしても、目の前の売上よりも自社の存在意義にフォーカスして、受注をキャンセルできるかどうか。投資ができるかどうか」が存在意義の問いになる。

キャンセルや投資によって生まれるのは、存在意義がより強固になることだ。その後に利益が生まれる。

キャンセルや投資が、どのような意味・価値をもたらすかといえば、会社のブランディングに大いに繋がってくる。前述した「従業員の要請」である「何をする存在(会社)なのかに注目していること」の注目度が増すし、それに対して誠意ある回答をすることが可能だ。

存在意義から勝負する企業が増えることで個人のキャリアは輝く

矢印の境界線が明確になればなるほど、会社に入りたい人・入りたくない人の差が、わかりやすくなる。つまり、働き手個人も、キャリア選択がしやすい状態の会社だということだ。

このような会社は間違いなく増えていくし、我々も増やしたいきたいと思っている。そして若い人材が将来のキャリア選択に迷う現代社会が過去のものとなって、企業で働くことが、自己実現の道として存在している個人が増えれば日本も活性化し、ひいては生産性向上につながるだろう。

今回は概念的な話をしたが、ぜひCHROや経営者と意見を交わしながら、貴社のパーパス経営について、存在意義から実際の営業現場まで、一気通貫した取り組みになるための道を対話させて頂きたい。