なぜ1on1を導入しても効果がないのか?

テレワークによって、社員同士のコミュニケーション量が減った。例えば一人暮らしの社員は、仕事にも関わらず誰とも会話せずに 1日を終えるということがあり得る環境となった。そうした課題を改善するために、1on1を導入する企業が増えている。しかし、現場にヒアリングをかけてみると、1on1の効果が現れない状態が浮き彫りになっている。この理由を解明するべく、続きを書いていきたい。

効果がない理由は、前提が“評価中心”だから

1on1は対話の場、部下の成長の場などという話が多くあるが、そうした場を整えるための大前提は、「評価ではなく理解をする」あり方で臨むことだ。しかしながら、常に部下を評価する立場である上司という役割が、突然、1on1の時だけ理解に努めるというのは至難の業だ。

こうした条件だけでなく、人間の特徴として、自分の評価・判断を使ってコミュニケーションを行っているにも関わらず、それを脇において相手の話を聞くことは大変難しい。

こうした大前提の理解がないまま、1on1という手法を導入してしまうと、評価中心の1on1が横行してしまい、結果的に関係性が悪化してしまうという悪循環を生み出すケースもある。

では、評価中心の1on1から、理解中心の1on1に変えるためにはどうすればよいか?まずは目的の共有をしていきたい。

1on1の目的・段階とは

そもそも、上司・部下が、1on1の目的に対する共通認識を持ち、実施しているケースは少ないのが問題だ。1on1の導入をするものの、各人が目的について腹落ちしていない故、実際の内容が自己流になっているケースがほとんどである。

ぜひ、目的について腹落ちをして頂きたく、話を進めていきたい。1,500人の1on1を実践してきた私からみて目的は3点ある。

①互いの意見を聞きあえる信頼関係の醸成

そもそも1on1は、関係の質を土台とした、組織の成功文化を作ることに大変役立つ。上記、ダニエル・キム氏の成功循環モデルのような組織づくりを行う目的から、生まれている手法が1on1といえる。

この関係の質を向上するために「互いの意見を聞きあえる信頼関係を築くこと」を第一の目的と設定した。そのためには「知らなかったことを知れた」という経験を互いに作り続けることだ。

具体的には、

  1. 「相手はきっと●●だ」という評価から
  2. 「実は●●ではなく◯◯だった」という理解をし
  3. 組織をより良くするために、互いの意見を聞きあえる信頼関係を醸成する

という流れで行えることがゴールだ。

しかし実際の1on1は、

  1. 「相手はきっと●●だ」という評価のまま
  2. 「だから相手はこうした方が良い」という方向性を提示し
  3. 相手の意見は聞かずに信頼関係は崩れていく

という流れで着地するケースがほとんどだ。

1→2の段階に到達するには、大きな壁がある。なぜならば、多くの人は、1の前提となる自身の評価に疑いを持っていないからだ。

1on1は理解を深め信頼関係を醸成する対話の場であり、評価をしフィードバックする面談の場ではない。この腹落ちが弱い。

部下の事を真剣に考える上司であればあるほど、よりよい問題解決をするために、部下を客観的に評価しようとする。実は、1on1においては、その思考が目的達成を塞いでいるのだ。

自身の評価に疑いを持ちながら話を聞ける上司は、部下が感じている潜在的な問題意識に興味を持って話が聞ける。

それにより、相互に「知らなかったことを知れた」経験を作る土台ができ、1on1の効果が非常に高くなるのだ。

②チームの意思決定能力向上

第一の目的がある程度達成している組織における、1on1の第二目的は「チームの意思決定能力向上」となる。

例えば営業において、サービス導入時の失敗例・成功例など、自社における素直なフィードバックをすると、顧客から案件のご相談をいただく経験をしたことがあるだろう。

これは、関係性の質が向上したため、顧客の意思決定(思考の質)がクリアになり、結果の質が向上したケースなのだが、社内にも応用可能であることを忘れている上司が多い。

つまり、営業マンから自社の素直なフィードバックがあると、顧客はサービスの判断がしやすいように、部下から仕事上の素直なフィードバックがあると、上司も意思決定がしやすい。そして結果の質が向上するのだ。

素直なフィードバックから、課題感が出ればそれを解決し合うチームとして取り組める。しかし、部下が上司から評価されることばかりを気にしている状態であれば、当然素直なフィードバックは出ない。

そうした場合は、1on1の目的を「1:信頼関係の向上」により比重を置く必要がある。

また、そもそも現状の仕事を把握しきれていなかったり、客観的事実を中心とした建設的なコミュニケーションではなく、自身の主観を中心とした消耗的なコミュニケーションを行っていることに無自覚な状態(例えば新入社員や若手社員)であれば、ビジネス基礎力を向上するための施策を考えなければならない。

③チームの実行スピード向上

第二目的まで達成できると、1on1自体は、仕事上での意思決定をするためのコミュニケーションと、ほぼ変わらない状態になる。

それでも1on1は必要だ。なぜならば、実行をするにあたっての不安や、懸念点は誰しも持っており、普段の業務ではそうした思考や感情に蓋をして、行動しているからだ。

思考・感情面のクリアリングをして、よりアクセルを踏んで加速するための場として活用するべきだ。この際に上司に求められる部分は傾聴力だけでなく、問題解決力だ。「どう部下に情報をインプットし、モチベートするのか」という問題解決思考が少し役立つのは、1on1においてはこのパートのみである。

まとめ:目的を忘れずに実践する

評価中心の1on1が故に、社内に導入しても効果がなかった。①〜③の目的に沿って1on1を実践していくことで、関係性の質は変わっていくのだ。しかし、「勝手に目標が達成された」と評価をしてしまい、信頼関係が構築されていないまま、また業務の話を進めてしまうことが多い。

では、評価中心の1on1から理解中心の1on1にするためには、どのように1on1を設計すればよいのか?

それについてはこちらの記事でご紹介しているので、見ていただければ嬉しい。