なぜ今の時代のITエンジニアはヒアリングスキルが求められるのか

今まで以上に、ITエンジニア(IT技術者)のヒアリングスキル向上が求められている。弊社は、IT技術者向けのヒアリングトレーニングの実績が複数あるが、別会社に関わらず、驚くほど課題感が似通っている。すなわち、この課題感は、企業単位ではなく日本の中堅〜大手IT企業の課題として捉えるべきだと考えた。もしあなたがIT技術者の育成担当者で、これから書く記事と、同様の課題感を持っているならば、早急な対応をすることを勧める。

企業価値の変化が求められている時代

まずは時代の変化について話を進めていく。

ITの業界構造は、建設業界のように、下請け・孫請けがある業界だ。当然、発注側が強く、下請け側は弱いため、競争を強いられる。そのような業界構造の中、時代は働き方改革が進み、副業やフリーランスが台頭した。また、国をあげてDX人材を育成しており、若い新興IT企業の誕生が相次いでいる。

そうなると、古くからこの業界に携わっていた、一次・二次下請けのIT企業は特に企業価値の変化をせざるを得なくなる。

要求定義・要件定義が曖昧な案件が増えている

今までは、発注側が要求と要件をまとめており、発注先も切り分けができている段階で、依頼を頂いていた。すると、下請け側は、要件定義通りに、滞りなく作業を進めていく事に価値をおかれており、ミスが少なかったり、突然の様式変更に対応できることに差別性があった。

しかし、今はそうではない。そもそも発注側からの要求定義・要件定義が曖昧な案件が増えているのだ。この理由については、世の中のニーズの多様化によるものだと考察している。例えば、ITインフラの整備という国の大型案件だとしても、明確な切り分けが難しくなっている。

要求定義・要件定義のできるIT技術者が新たな企業価値を産む

いずれにせよ、要求定義・要件定義ができるIT技術者が一次・二次下請けのIT企業にも必要不可欠になってきており、その人材が、他社との差別性を産み、新たな企業価値を産む。

発注側が悩んでいる点に関して、一緒に考えられる人材は大変貴重だ。あなたが管理職であり、何かしらの悩みに対して一緒に考えてくれる部下がいれば、大変助かることと同じである。

更に、商品・サービスの質も向上する。要件定義のスキルを持っていれば、既存案件に対してより深く踏み込んでいき、領域の拡大も可能だろうし、新規案件に関して言えば、自社サービス・商品開発を行うことも可能だ。

そのような企業に変化していくことにより、「下請けのIT企業(SES)」から「自社商品・サービスの開発も行っているIT企業」というブランディングもできるため、人材採用においても有利であろう。

逆を言えば、このような時代の流れから、発注側のニーズが変わっている中で、下請け側の変化がなければ、競合から淘汰されていき、企業価値が低下する危機があるといえる。

要求定義・要件定義をする基本はヒアリング

では、要求定義・要件定義ができるIT技術者を育成するために、まず何をするべきか?

この問いに対して、新興IT企業の社長との会話で、ヒントになりそうなことがあったので紹介したい。

私「何十年も固定で大型のお客さんがいたから、営業をする必要がなくて、滞りなくオペレーションをすれば問題なかったIT企業がいらっしゃるんですが、コロナになったこともあって、シュリンクしているんですよね。どうやら、オペレーションも、言われたことしかやらないみたいで、上から目線だとお客様から言われる事もあったらしいんです」

A氏「なるほど・・うちはまさに、そうした傾向にある企業の競合として入って、受注するケースが多いです。そういう固定された価値観がない分、個々の力でお客様のニーズを入り込んで聞いていくからだと思っています」

少々意訳を挟んでいるが、上記のような会話をしていた。新興企業の弱みは文化が成熟していない所があるため、信頼に欠けるが、逆に言えば恐れずに飛び込む勇気がある。つまり「分からないが故に聞いている」のだ。単純なこの違いが、顧客から見れば、今までの信頼を覆すほどの大きな差別性に繋がることがある。既存顧客に対して「分からないから聞く」ということができないエンジニアが多いからだ。

だからヒアリングが要求定義・要件定義ができる人材になるための一番最短であり重要なスキルなのだ。

ヒアリングスキルを身につけるには

上記の「分からないが故に聞いている」新興企業のエンジニアは、何か専門的なヒアリングスキルを持ち合わせているわけではない。

これはエンジニアに限ったことではないが、多くのビジネスマンは、驚くほど相手の仕事に関する質問をしない。特に、既存顧客に長期間常駐で稼働しているようなエンジニアであれば、顧客を知っていると思うのは当然だ。しかし、自身の与えられた仕事の範囲内でしか、分かっていないのが実情である。

この事に自覚がないから、顧客に自身の仕事の範囲を超えた質問をしない。だから「分からないが故に聞く」新興企業のエンジニアが魅力的に見えてしまうのだ。

もし、あなたが育成担当者であれば、今読んでいただいている記事をぜひシェアしていただき、エンジニアの反応を見てみてほしい。「確かに顧客の事を分かっているつもりでいました。逆に知らないことはなんだろう?」と疑問を持つことが出来れば、貴社のエンジニアは青信号だ。しかし、「それくらい分かっていますよ」「この記事、そういうことじゃないんですよ」「私もやっていますよ」という反応であれば、黄色信号だ。

そもそもヒアリングを身につけるには、相手に興味を持つようなマインドが重要である。そして、相手に興味を持つために、「そもそも自分は話を聞いていない。質問していない」事を自覚することが大前提で、スキルはその次だ。それも含めて、ヒアリングスキルといえる。

もし、貴社のエンジニアに黄色信号を感じていて、要求定義・要件定義ができ、案件を獲得・拡大できるようになるくらい、ヒアリングスキルを身につけるのであれば、専門的なトレーニングを集中的に受けることをおすすめする。