【天秤は2つある】ベンチャー企業が人を増やすと崩壊する理由

日本のベンチャー投資の意欲は止まっていない。日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の調査では、事業会社が運営するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の22.4%が、コロナ前より投資を増やすと回答。56.9%が「今まで通り」と答え、全体の8割が投資を増やすか維持する状態だ。そのような中でよくあるのが、「人を増やすと崩壊する」という話だ。一体どういうことなのか?そのメカニズムを考察した。

事業化から規模化・組織化のフェーズで起きること

仕事柄、ベンチャー投資家やベンチャー企業の人事部長と話をする機会があるのだが、そこでの共通点は「事業が立ち上がりはするものの、人が増えたときに会社が倒れることが多い」ということだ。

資金を投下することで、自社のエッジを発見し、それを伸ばそうとする所まではできる。いわゆるシード期・アーリー期を乗り越えて、ミドル期に入っていく段階だ。漫画・ワンピースに例えて言うなら、これまでの海は、イーストブルーだった。

しかし、ミドル期からは、グランドラインに入るようなものだ。事業のエッジが立ってきているから、それを拡大していくために、当然、人を採用するし営業にも資金を投下し力を入れていく。強風にも耐えられる大きな船を用意し、規模化・組織化していくのだ。

だが、そのときに、沈没してしまう。

一体、なぜか?

小型船と大型船の乗客の違いは?

人が多くなれば「個人」がぼやけてくる。小型船ではテキパキと役割と責任感を持って働いていたが、船が大きくなり、「そんなに頑張らなくても●●さんがいてくれるから安心っすよね」なんていう後輩が現れて、そんなに頑張らなくても良いか・・と気が緩んでくる。

そうすると、責任のなすりつけ合いや、自分の仕事範囲を自分で決めて、それ以上の成長を拒む人が現れる。

人数が多くなれば、当然、成長するカルチャーと現状維持のカルチャーがぶつかる。どちらが勝利するか、ということの前に、このぶつかりをどう観るかが重要だ。沈没してしまう企業は、ぶつかっているカルチャーの、更に土台を変えられない企業だろう。

天秤は2つ存在している

Copyright RelationShift.inc.2021

実は天秤は2つ存在していることを、多くの経営者も、あるときは投資家も忘れてしまっている。成長カルチャーと現状維持カルチャーのぶつかり合いをしているが、どうも上場を目指すとなると、成長カルチャーのほうが良いと思い、目の前の成果や規模化を急ごうとする。

だが、そうすると人が離れていき、経営陣もバラバラな方向を向いて、崩壊するのが多い現実がある。

その理由は、もう一つの天秤を見失っているからだ。

組織の成功循環モデルとは

組織の成功循環モデルによると、関係性の質を中心に運営した組織が成功するという。どうしても関係性というと、人対人というイメージが出てくるが、今回のケースで言えば、それは会社全体と会社のミッション・ビジョンとの関係性だ。

すべての行為・行動が、創業時の意志に帰結し、また創業時の意志と繋がった状態で会社運営をすることで、組織は強くなり成功循環が作られる。そのために、経営者が月1回1on1を全社員と行っているというケースも多い。

組織の失敗循環モデルとは

だが、この「上場」という大きな目標を掲げた途端に、失敗循環モデルに入りやすい危険性が孕んでいる。

先程も伝えたように、そもそも創業した理由があるはずだが、それを忘れて目の前の結果に追われてしまう。経営陣に、その状態が強く現れるのが、上場基準をみた時や、株主との会議であろう。

創業した理由を達成するために、上場をしようと懸命に、もがいているはずなのだが、その理由を忘れ、いつの間にか上場基準達成のために利益をあげて、稼ぐことを第一目的として走り出す。

トップからのメッセージが、「第一にミッション・ビジョンの達成」というメッセージから「第一に上場基準達成に向けて」というメッセージになっていく。すべての仕事も成果についても、結果を中心に帰結し、結果のために行動をする。その基準が横行したコミュニケーションになっていき、人がやめていく。

すると、そもそもの創業の意志である基準点を見失うから、独自の考えで基準を作り出して空中分解が起きるのだ。

まとめ

ベンチャー企業が人を増やすと崩壊する理由は、2つある天秤の、土台である天秤を、見失っているからだという結論をつけた。

ここで断っておきたいことは、私は決して、上場することを否定していないということだ。

上場には様々な意味・価値が存在している。私がここで伝えるまでもなく、それは多くの人が知っていることだ。

アスリートの大きな目標が、オリンピックであるのと同様に、起業家の大きな目標は、上場であるという共通認識は相違ないはずだ。

だからこそ、様々な人の意志や意図がそこに発生する。

起業家は「自分の会社」から「社会の会社」になるにあたり、退任する可能性もあれば、続ける可能性もあるだろう。何れにせよ、そうした、自分と会社との関係性の変化が、成功循環モデルの一歩となることは間違いない。