なぜうちのエンジニアは顧客の本音を引き出せないのか|ヒアリングスキルの3段階で考える
「提案しても、いつも刺さらない」
「打ち合わせが終わった後、何を決めたのかよくわからない」
「エンジニアが顧客と話しているのに、毎回表面的なやり取りで終わってしまう」
育成担当者や事業責任者から、こういった声を聞くことが多い。コミュニケーション研修を実施したはずなのに、現場が変わらない。そう感じている方も少なくないだろう。
原因は、スキルの問題ではない。エンジニアに特有の「聞き方の癖」が、顧客との対話を表面的なものにしているのだ。本記事では、その構造的な原因と、組織としてどう向き合うかを整理する。
目次
エンジニアに特有の「聞き方の癖」とは

研修の現場でよく起きることがある。受講したエンジニアが、振り返りでこう言う。
「顧客の立場に立って考えなきゃいけないとは思っていた。でも、それを言語化できていなかった」
「無意識のうちに要約してしまっていた。自分が使いやすい言葉に変換してしまうから、相手の言葉をそのまま受け取ることができていなかった」
本人に悪意はない。むしろ「聞こう」としている。それでも顧客の本音が引き出せないのは、「聞いているつもりで、変換している」という癖が無意識に働いているからだ。
たとえば顧客が「最新のAIが気になっている」と言ったとする。
エンジニアの頭の中では瞬時に「AIを導入したいんだな」「既製品と開発、どちらがいいかな」「予算はいくらだろう」という変換が走る。
これは思考の自然な働きであり、悪いことではない。ただ、この「変換」が先に走ることで、顧客が本当に言いたかったことを聞き逃してしまう。「気になっている」の中に何があるのか、「最新の」とはどういう意味なのか、そこを掘り下げる前に、自分の判断基準で話を進めてしまう。
なぜエンジニアはこの癖を持ちやすいのか
エンジニアは、仕事の性質上「要件を明確にすること」を求められてきた。曖昧な情報を整理し、機能要件と非機能要件を分け、構造化し、実装可能な仕様に落とし込む。これは優れた能力だ。
しかしこの能力が、顧客との対話では逆に働くことがある。顧客の言葉を「整理」しようとするあまり、自分の解釈フィルターを通して変換してしまう。顧客の言葉ではなく、自分が理解しやすい言葉に置き換えてから「聞いた」と判断してしまうのだ。
加えて、エンジニアと顧客の間には「2つの障壁」がある。
ひとつは専門用語の壁。技術的な文脈で話すことに慣れているため、顧客にとって意味が違う言葉を同じ言葉として受け取ってしまうことがある。
もうひとつは立場の壁。エンジニアは「技術を提供する側」という立場で顧客と向き合うことが多い。そのため、顧客が「何のためにそれを必要としているのか」という目的側の話を聞く前に、「どう実現するか」という手段側に話が進んでしまいやすい。
ヒアリング力は3段階で考える
育成担当者が「うちのエンジニアのヒアリングスキルはどのくらいか」を把握するには、3段階の枠組みが参考になる。
レベル1:相手の話したことを聞けない
顧客の言葉を変換して受け取ってしまう状態。本人は「聞いた」と思っているが、実際には自分の解釈フィルターを通した内容を聞いている。多くのエンジニアが、自覚なくこの状態にいる。
レベル2:相手の話したことをそのまま聞ける
顧客の言葉を変換せず、一語一句そのまま受け取れる状態。「事実」と「自分の解釈」を分けて認識できる。これができて初めて、正確な情報共有や報告が成立する。
研修の現場でも、この段階の難しさはよく出てくる。「聞き取ることと書き取ることが別のプロセスなので、どちらかに集中すると難しい」「商談内容がきちんとメモできていないと、事実と解釈を分けられない」という声が上がる。レベル2は、意識して訓練しないと身につかない。
レベル3:相手の話していないことを引き出せる
顧客自身がまだ言語化していない課題や本音を、質問によって引き出せる状態。「確認質問」と「対称質問」という2種類の問いかけを使いこなすことで、顧客が「そうそう、それが言いたかった」という対話が生まれる。
現場で起きている失敗の共通点
研修で受講者が振り返った失敗事例には、共通するパターンがある。
「お客さんの言葉を引き出せないまま、作業を進めてしまった。仕様締結の言葉をいただけないまま進んでいた」
「打ち合わせで自分の作業を一方的に報告する形になってしまい、質問が来てコミュニケーションのロスになった。相手が何を求めているのかを考えられていなかった」
「顧客の立場で資料を見たときにどう見えるか、考えられていなかった。それができていればトラブルも防げたはずだった」
これらはすべて、レベル1とレベル2の間で起きている問題だ。「聞いたつもり」で進めてしまった結果、顧客との認識のズレが表面化している。
育成担当者が見落としがちなこと

「コミュニケーション研修を入れたのに変わらない」という声をよく聞く。その理由のひとつは、一般的なコミュニケーション研修が「話し方」や「伝え方」に重点を置いていることにある。
しかしエンジニアのヒアリングスキルの問題は、話し方ではなく「聞き方の癖」にある。変換癖を自覚させ、顧客の言葉をそのまま受け取る訓練をしない限り、表面的なスキルをいくら教えても現場は変わらない。
また、エンジニアが顧客と向き合う場面は、時代とともに増えている。かつては営業が顧客対応をして、エンジニアは要件を受け取るだけでよかった。しかし今は、技術者自身が顧客の課題を引き出し、提案につなげることが求められている。この変化に組織として対応できているかどうかが、受注力の差になってくる。
まとめ
エンジニアが顧客の本音を引き出せない原因は、スキル不足ではなく「変換癖」という構造的な問題にある。育成担当者としてまず把握したいのは、自社のエンジニアがヒアリング力の3段階のどこにいるかだ。
レベル1にいるエンジニアに提案力を求めても、土台がない。レベル2が安定して初めて、レベル3の「引き出す質問」が機能する。育成の順番を間違えないことが、組織全体のヒアリング力を底上げする最短ルートになる。
組織としてヒアリング力を上げるための育成アプローチについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
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