【研修レポート】「聞く」を変えたら、1億円の受注が生まれた──技術者が学んだ“対話の力”

「ヒアリングって、何を聞けばいいの?」通信会社T社の技術者たちは、ヒアリング研修初日にそうつぶやいた。
顧客から提示された仕様を正確に実装することこそが「聞くこと」であると考えていた彼らにとって、課題を深掘りし、顧客と一緒に未来を描く“対話”は未知の世界であった。しかし、4ヶ月間のヒアリング力向上研修を経て、「聞くこと」の意味が大きく変わり、提案精度が劇的に向上した。
その結果、1億円規模の受注獲得につながったのである。
本記事では、T社で起こった変化のプロセスと、同じ課題を持つ企業が明日から試せるヒントを紹介する。
目次
「聞けているつもり」から始まった研修
T社は年商100億円を超える通信企業である。長年、受託開発を中心に事業を行ってきたため、エンジニアが自ら顧客の課題を掘り下げる機会は多くなく、現場のヒアリングは、仕様を正確に遂行するための確認が中心であった。その結果、顧客との対話は「要件を漏れなく拾うこと」が目的化し、提案の幅が広がりにくい状態であった。
「なぜか、顧客のニーズとズレた提案になってしまう」
「聞けているつもりだったが、実は聞けていなかったかもしれない」
こうした現場の声が、研修のスタート地点であった。
「聞き方の型」で現場が変わる
研修では、単なる座学ではなく、日常業務で実践できる「聞き方の型」を徹底的に練習した。
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確認質問・対称質問:相手の言葉に沿ってヒアリングをし、意図や背景を深掘りする
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事実と解釈を分ける:自分の思い込みや、勘違いを防ぐ
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時間軸(過去・現在・未来)で課題を捉える:全体像を立体的に理解する
毎回のセッションでは、現場で試したエピソードを持ち寄り、ロールプレイで改善ポイントを確認した。
「聞けているつもりだったが、実は浅い質問しかしなかった」そんな気づきが、徐々に現場に広がっていった。
技術者からは次のような声があがった。
「技術の話に入る前に、相手の立場で問い直す時間を持つようになった」
「質問してはいけないと思っていたが、むしろ喜ばれた」
この小さな気づきの積み重ねが、組織全体の“対話文化”を変えていったのである。
「聞く」が提案を変え、成果を生む
研修を重ねるうちに、提案内容が具体的かつ顧客課題に寄り添ったものへと変化していった。
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「とりあえず仕様通りに作る」から、「顧客の言葉を反芻する」事を通して、顧客と一緒に考える姿勢へ
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顧客から「そんなことまで聞いてくれるのですね」と信頼を得られるように
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社内でも情報共有や対話が活発になり、提案の質が向上
その結果、研修後に行った商談で、1億円規模の受注を獲得することに成功した。現在も、売上が数%ずつ伸びているという。
技術力だけではなく、ヒアリング力が売上に直結するという実感を、現場全体がつかむことができたのである。
明日から使える「聞き方」のヒント
「自社も同じ課題を抱えているかもしれない」と思った方に、すぐ試せるヒアリングのヒントを3つ紹介する。
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確認質問をする
「今◯◯とおっしゃいましたが、これは△△という理解で合っていますか?」と、相手の言葉の意図を確認する。 -
背景を探る
「今◯◯とおっしゃいましたが、なぜ◯◯が必要なのですか?」と、理由や目的を聞く -
時間軸で課題を捉える
「現在は◯◯という課題でしたが、過去は◯◯の課題はあったんですか?」と時間軸を広げて聞く
これだけでも、対話の質が一段上がり、相手が本当に求めている価値に近づけるはずである。
まとめ
T社の事例が示すのは、「聞くこと」が提案や成果を変える力になるという事実である。仕様を正確にこなすだけでなく、顧客と未来を一緒に描ける人材・組織は、これからの時代にますます求められる。技術力やノウハウだけでなく、対話の力を持ったチームは、提案の質も組織文化も進化していく。そしてその変化は、最終的にビジネス成果へと直結するのである。
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