トップセールスマンの心の中 ——「断られたくない営業」と「断られても大丈夫な営業」の分岐点

この話は、弊社取締役の吉川健一が、何度もトップセールスを獲得した経験と、その裏にあった内面の葛藤を元に描いている。

さて、トップセールスと呼ばれる人たちは、外から見れば輝いて見える。数字を出し、自信がありそうに話し、周囲からも頼られ、称賛される存在だ。しかし、その内側を覗いてみると、まったく異なる世界が広がっている。

「売れなかったらどうしよう」
「次も結果を出せる保証なんてない」
「誰にも弱音は吐けない」

トップセールスの多くは、強烈な不安とプレッシャーの中で孤軍奮闘している。そこにあるのは、“メンタルが強いから耐えられる”のではなく、“不安を無理やり殺して、やり続けるしかない”という現実である。

本稿では、そんな「断られたくない営業」と、「断られても大丈夫な営業」との分岐点を明らかにし、それぞれが歩むキャリアの“その後”を比較していく。

1. 「断られたくない営業」が育む、孤独と疲弊のスパイラル

誰よりも数字を追い、誰にも弱音を吐けない

断られたくない——そう思う営業は、常に“勝ち続ける”ことを自分に課している。

  • 過去の自分より成果を出せているか?

  • 周囲の営業より上にいるか?

  • 今日も「負けなかった」と言えるか?

こうした考えが、毎日、頭の中を巡り続ける。それは自分への問いではなく、“自分を保つための呪文”に近い。

「今日も売れているふりをしなければ」
「本当は怖いけど、それを見せたら終わりだ」

こうして、結果が出ていようがいまいが、営業という仕事は“他人と比べられる競技”になり、プレッシャーから解放される瞬間は、成果を出したほんの一瞬だけ。そして、更にプレッシャーがやってくるので、解放は永遠に訪れない。

成果を出しているのに、心は満たされない

吉川がトップセールスを獲得した過去を振り返って、こんなことを語っていた。

「売れている感覚って、実はあまりないんです。売れなかったらヤバいって感覚ばかりだったから」

成果を出すことが前提になれば、達成した喜びや誇らしさは消え、「やっとノルマを乗り切った」という刹那の安心にすり替わる。

断られないために動き、怒られないために話し、成功の裏には、絶え間ない恐怖との戦いがある。

2. 「断られても大丈夫な営業」が育てる、持続可能な信頼と自走力

大前提として、「断られても大丈夫」だというスタンスを持った営業マンは、ほぼいない。なぜならば、先述の通り「断られないように」というマインドが、知らず知らずのうちに身についてしまうからだ。

その一方で、断られることを恐れず、「断られても前に進める」営業スタンスを身につけた人はどうだろうか。

行動量より“意味ある対話”にフォーカスできる

断られることに意味を見出せるようになると、「今日何件訪問したか」ではなく、「今日どんな会話をしたか」「どんな発見があったか」に目が向く。

ユニークだから、成果出てます。

「型にはまらない育成」で、
現場もマネジメントも動き出す。

導入事例を見る
  • 「断られた理由を深掘りして、新たなニーズに気づけた」

  • 「このお客様とは、もう少し時間をかけた方が良いと分かった」

このように、断られた経験が“次の戦略のヒント”になっていく。

自分を“演じる”必要がなくなる

「断られたくない営業」は、常に自信満々に振る舞う必要がある。それが周囲や自分への“防衛線”になっているからだ。

しかし「断られても大丈夫な営業」は、弱さや迷いを認めつつ、相手に向き合える。それが、関係性の深さを生み、結果的に“信頼される営業”になっていく。


3. 両者の“その後”に訪れる違い

「断られたくない営業」がそのままのスタンスで走り続けた場合、積み重なるプレッシャーが徐々にモチベーションを削っていき、やがて限界を迎える瞬間が訪れる。

最も厄介なのは、本人がその限界に気づけないまま走り続けてしまうことだ。そしてある日、何かをきっかけにポキッと折れてしまう。さらに、成果が出ない状況に陥ったとき、「自分には価値がない」と思い込んでしまう危険性も高い。

結果によって自尊心が支えられていた分、それを失ったときの落差は大きく、深い自己否定へとつながってしまう。

一方、「断られても大丈夫な営業」は、顧客との関係性を積み重ねる中で信頼が育まれ、紹介やリピートといった“循環型の成果”を生むようになる。

自身の行動にはPDCAがしっかりと回り、再現性のある提案が組み立てられるようになるため、数字にも安定感が出てくる。

そしてなにより、結果に一喜一憂するのではなく、「自分はこういう営業スタイルで貢献している」という“誇れる軸”が内側に形成される。

それが次の挑戦を支える土台となり、継続する力へと変わっていくのだ。

4. 両者を分ける“転機”とは?

営業の分かれ道は、突然現れるわけではない。小さな日々の上司の声掛けや、やり取りが、やがて大きな差となって表れる。

その転機とは、たとえばこんな場面だ。

  • 断られた商談のあと、上司から「よく断られた理由を聞いてきたな」と声をかけられた

  • チームで「どんな断られ方した?」と笑って話し合えた

  • お客様との会話の中で、「今日は売らなくていい」と自分に許可できた

こうした場面の積み重ねが、「断られても大丈夫な自分」を形づくっていく。

吉川自身も、その“転機”を得た経験をしている。ある大手医療機器メーカーにてトップセールスを2度獲得した翌年、このままだと数字が達成できない不安が押し寄せてきた。そして上司に「今年は達成が難しいかもしれません」と話をした。

すると、上司からは、このようなコメントが返ってきた。

昨年度あれだけ売り上げたんだから、数字なんか達成できないのは、当然だよ!そんなことより、顧客と関係を作ることが大切だし、そっちをやろうぜ!お前は、それをいつもやっているから大丈夫だ!

吉川は、そのやり取りで「なんていい上司なんだ」と感じ、モチベーションが回復し、営業という仕事を続けられたという。

5. 育成の視点から考える「断られ耐性」と「営業の持続性」

上記のように、トップセールスを生み出すことと、営業人材が長く健康に働けることは、必ずしもイコールではない。

むしろ、「トップセールスでい続けなければならない」という圧が、営業の世界から優秀な人材を遠ざけてしまっている。

売れなくても肯定される体験
断られても笑えるチームの空気
売上以外にも目を向けられる視点

これらがあってこそ、営業は“自分をすり減らす場所”ではなく、“自分を育てる場所”へと変わっていく。

そしてその場所が結局、「トップセールスを生み出し続ける場所」なのだ。

おわりに:数字では見えない「心の在り方」を見直す

営業の評価は、常に数字で語られる。しかし、数字の裏には必ず“心の在り方”がある。

「断られたくない」と思うのは自然なこと。だが、それが常態化すると、いつかその営業は壊れてしまう。

「断られても大丈夫」と思えることは、単なる楽観ではなく、“育てられた経験”の証である。

Relation Shiftは、そんな“心の安全圏”を広げ、営業という仕事を「続けられるもの」へと進化させていく。

孤独に燃え尽きるトップセールスを量産するのではなく、チームで支え合いながら成果を出し続ける文化を、育てていこう。

今、動き出す成果。未来に続く成長。

「目の前の成果」と「持続する力」を両立する、
リアルな事例をご紹介しています。

導入事例を見る