技術者が“提案できない”本当の理由|意欲ではなく『理解するための提案』へ

弊社は「技術者の提案力を高めてほしい」という要望にお応えすることが多くある。そこで感じるのは、「提案=営業、営業=体育会」といったような、飛躍したイメージが蔓延しているがゆえに、提案することに縮こまっている様子があるということだ。

提案というのは、そう構えることではない。かつ、タイトルの通り、上記のようなイメージを突破して「我々も勇気を持って提案するんだ!」というような意欲をもつことでもない。ソースコードと同じで、順序よく身に着けていけば、業務プロセスの中に提案が入っていることを知ることができる。今回の記事では、“提案できない”根本的な理由と、意欲の問題ではなく、提案できる技術者になるためのナレッジをお伝えする。

なぜ「回答」を「提案」と勘違いしてしまうのか

技術者が「提案できない」と感じる場面の多くは、能力不足や経験不足が原因ではない。 現場ではむしろ、「提案しているつもりだったが、実は回答に留まっていた」という気づきが生まれることが多い。そしてこの「回答」を「提案」と勘違いしている人もいるのが技術者の特徴でもある。

聞かれたことに対して正確に答える。 要望が実現可能かどうかを技術的に説明する。 これらは技術者として非常に重要な役割であり、欠かせない仕事である。ただし、それは「提案」ではなく、「回答」である場合が少なくない。

提案とは、相手の問いに答えることではなく、 判断を前に進めるための材料を差し出すことに近い行為である。

技術者が担うべき「提案」の正体

提案と聞くと、多くの技術者は次のようなイメージを抱きがちである。

  • 方針を覆す
  • 追加コストを伴う
  • 相手を説得する
  • 何かを売り込む

しかし、実際の業務プロセスで求められている提案の大半は、そこまで大きなものではない。

たとえば、

  • 前提条件がどこまで決まっているかを確認する
  • 決まっていない点を明確にする
  • このまま進んだ場合の影響範囲を整理する
  • 判断に必要な情報が不足していることを伝える

これらは営業行為ではない。 技術者だからこそ担える、専門性の高い行為である。

提案は「意思決定を変える行為」ではない

多くの技術者は、「顧客の意思決定の場に参加していない」と考えている。技術的な進捗を確認する定例会議には参加しているものの、意思決定の場には参加していないから、「提案は言われた時にするもの」となっている。

この状況で提案に踏み込むことに慎重になるのは、極めて自然な反応である。 情報が不足した状態で踏み込めば、的外れになる可能性があるからだ。しかし、定例会議に出ているからこそ担える役割もある。 それは、今ある情報だけでは、判断できない点を明確にすることである。

  • この前提が決まらないと設計が進まないから、今の意思決定の状態を確認したい
  • この点が曖昧なままだと後工程で影響が出るから、どのような共通認識となっているのか知りたい

こうした指摘は、技術者だからこそ言語化できる質問である。提案は「意思決定を確認する行為」なのだ。

提案は「正解を出すこと」ではない

提案に対する心理的ハードルの一因は「顧客が考える正解を出さなければならない」という思い込みにある。しかし、実務における提案の多くは、正解を提示することではない。

重要なのは、

  • 何が決まっていないのか
  • どこにリスクがあるのか
  • どのような選択肢が存在するのか

を整理し、関係者に共有することである。つまり、顧客も正解を分からない中で、専門家に頼っているのだ。その事を忘れずに「技術的な意思決定の専門家」として質問をし、意見を求められれば、アドバイスをすればよい。

提案とは、答えを出す行為ではなく、 問いを差し出す行為でもある。

提案はすでに業務プロセスの中にある

技術者は、すでに提案の入口に立っている。

  • 仕様を確認している
  • 不明点を洗い出している
  • 影響範囲を考えている

実は、これらはすべて、提案につながる行為である。 あとは、その決定に至った背景を探ることだ。「なぜ“必要だ”という議論が出てきたのか」「いつから“必要だ”という議論が出てきたのか」「いつまでに必要なのか。その理由はなぜか」と言った意思決定の背景を知ることだ。

技術者の「NO」を置き去りにしない支援の形

しかし、このような概論を話しても「そうはいっても出来るだろうか・・」といった不安や心配が先に出てくる。当然、やったことがないからこそ出てくる感情である、それは、意欲が足りないわけではなく、当然出てくるものだ。

問題は、この「NO」に対して共感と安心をもたらすことが出来ないからだと弊社は思っている。技術者の中で出てくるNOを、強引に、YESに変化させるよりも、それは確かにNOになる。それは確かに不安だし、やったことがないから大変だよな、自分も大変だった。などと、共感と安心を示すことが大切なのだ。

実際に、弊社では若手技術者や窓口となる中堅技術者に対して、提案力を高めるためのヒアリング力向上研修を行っているが、常に講師のフィードバックでは支援をしながらトレーニングを行っている。それによって、自信がつき、「お客さんとの会話が増えた」「提案に結びつけることができた」といった声が返ってきている。

意欲がないわけではなく、理論と支援の構造がなかったから、技術者は提案ができなかったのだと思っている。

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