エンジニアに営業力は必要か?──「気の利くSE」になれば成果は自ずとついてくる

「エンジニアにも営業力をつけてもらいたい」IT企業の育成責任者や管理職なら、一度は上から言われたことがあるはずだ。しかし現場では、「営業って言葉が嫌がられる」「どう教育すればいいかわからない」「押し売りさせたいわけじゃないんだけど…」という本音が渦巻いている。

そもそも「営業力をつけろ」という言葉自体が、現場のエンジニアにとっては違和感しかない。技術を磨いてきた人間に、いきなり「売れ」と言われても、戸惑うのは当然である。しかし、視点を変えてみてほしいのだが、そもそも必要なのは「営業力」ではない。「気の利くSE」になることである。そしてその延長線上に、結果として営業成果がついてくる。この記事では、育成責任者が押さえるべき本質を整理する。

結論:エンジニアに必要なのは営業力じゃない。「窓口力」だ

まず最初に整理しておきたい。エンジニアに求められているのは、押し売りをする力ではない。

  • 顧客との会話を噛み合わせる力
  • 期待値のズレを早い段階で揃える力
  • 次に何を決めればいいかを握って帰る力

これを「営業力」と呼ぶから話がこじれる。本来は「窓口力」と呼ぶべきものである。顧客と最も近い場所で技術を語れるエンジニアだからこそ、この窓口力が武器になる。

なぜエンジニアに「窓口力」が必要なのか

IT/SIer業界では、エンジニアが顧客接点を持つケースが増えている。理由は明確だ。

顧客は技術ではなく「自分の困りごと」を解決したい。

営業担当者は、顧客の困りごとを聞き出すことはできる。しかし、技術の細部まで詰めきれない。一方で、エンジニアが顧客とやりとりする中で、「ズレ」を放置したまま進めてしまうと、今度は別の問題が起きる。

  • 定例での議論が噛み合わないまま次に進む
  • 運用中の小さな違和感を拾えず、後で大きな不満になる
  • 改善要望の背景を聞かずに「できる/できない」だけ答える

この「日々の小さなズレの積み重ね」が、後の炎上につながる。納期の揉め事、追加費用の発生、「言った言わない」問題。これらはすべて、普段の会話で前提が揃っていないことから生まれる。

現場は「え、それをやるのが営業でしょ?またはうちの上の管理職でしょ?」と思っているかもしれない。もし貴社内で役割が明確でないならば、その声が出るのは当然だろう。ただ、既存顧客と日々接している現場のSEこそが、その橋渡しとなる最前線にいるのだ。そこで、「気の利くSE」の登場である。

「気の利くSE」とは何か?

では、気の利くSEとは何か。それは、次のような姿勢を持つ人である。

定例や運用の場で「背景」を聞く

顧客が定例会議で「この機能を追加したい」と言ったとき、すぐに技術の話に入らない。なぜその機能が必要なのか、どんな困りごとがあるのかを先に聞く。

要望の裏にある「困りごと」に気づく

顧客が口にする要望は、必ずしも本当の課題を表していない。気の利くSEは、その言葉の裏にある「本当に解決したいこと」を掘り下げる。たとえば、

  • 「この画面、使いにくいんだよね」→「どの場面で、誰が困ってます?」
  • 「データ出力を追加したい」→「今、手作業でやってるんですか?」

運用中の小さな違和感を拾う

システムを納品して終わりではない。運用が始まってから、どう使われているか、どこで困っているかを日々の会話の中で拾う。その視点があるからこそ、顧客から「また相談したい」と言われる。

言われた通り対応するのではなく「一歩先」を出す

顧客の言う通りに対応することが、必ずしも正解ではない。技術と現場の両方を知るSEだからこそ、「ここはこうした方が運用がラクですよ」と提案できる。

つまり、気の利くSEは、機能を提案するのではなく「業務のラクさ」を提案する。これが、営業しなくても追加案件や次の相談が増える状態を生む。

なぜそれが「エンジニア営業」になるのか

ここで重要なのは、気の利くSEの行動が、結果的に営業成果につながるという点である。つながる流れとしては、下記の通りだ。

  1. 日々の運用フォローの中で業務改善提案ができる
    • 顧客が気づいていない課題に気づき、それを解決する提案をする。
  2. 顧客から「それは助かる」と言われる
    • 提案が刺さると、顧客の信頼が積み上がる。
  3. 次の相談が来る
    • 一度信頼されると、「そういえば、こんなことで困ってるんだけど」と別の相談も自然と来るようになる。
  4. その人が窓口になる
    • 顧客の中で「あの人に聞けば間違いない」という存在になる。
    • 営業が新規で必死に関係構築するより、既存窓口のエンジニアが信頼されている方が、追加受注は圧倒的に早い。

最終的には、いわゆる“営業”をしなくても、案件が増える状態になる。これが「成果は自ずとついてくる」の正体である。

気の利いた業務改善提案はどう生まれるか

では、気の利いた提案は、どうすれば生まれるのか。実は、提案は「回答」とは違う。多くのエンジニアが陥るのは、「提案しているつもりだったが、実は回答に留まっていた」という状態である。

  • 聞かれたことに正確に答える
  • 要望が実現可能かどうかを技術的に説明する

これらは技術者として重要な役割だが、それは「回答」であって、「提案」ではない。提案とは、相手の問いに答えることではなく、判断を前に進めるための材料を差し出すことである。たとえば、

  • 「今の運用で、一番手間がかかってるのってどの作業ですか?」
  • 「この改善が実現すると、現場はどれくらいラクになります?」
  • 「今のやり方だと、将来的にこういう問題が出そうですが、どう思います?」

これらは営業行為ではない。技術者だからこそ担える、専門性の高い行為である。

提案は「意思決定を確認する行為」である

多くのエンジニアは、「顧客の意思決定の場に参加していない」と考えている。しかし、定例会議や運用フォローに出ているからこそ担える役割がある。それは、今ある情報だけでは、判断できない点を明確にすることである。

  • 「この前提が決まらないと設計が進まないから、今の意思決定の状態を確認したい」
  • 「この点が曖昧なままだと後工程で影響が出るから、どのような共通認識となっているのか知りたい」

こうした指摘は、技術者だからこそ言語化できる質問である。提案は「意思決定を変える行為」ではなく、「意思決定を確認する行為」なのだ。

提案は「正解を出すこと」ではない

提案に対する心理的ハードルの一因は、「顧客が考える正解を出さなければならない」という思い込みにある。しかし、実務における提案の多くは、正解を提示することではない。

重要なのは、

  • 何が決まっていないのか
  • どこにリスクがあるのか
  • どのような選択肢が存在するのか

を整理し、関係者に共有することである。つまり、顧客も正解を分からない中で、専門家に頼っているのだ。その事を忘れずに「技術的な意思決定の専門家」として質問をし、意見を求められれば、アドバイスをすればよい。

育成責任者がやるべきこと

ここまで読んで、「では、どう育てればいいのか」という問いが浮かぶはずだ。

しかし、このような概論を話しても「そうはいっても出来るだろうか…」といった不安や心配が先に出てくる。当然、やったことがないからこそ出てくる感情である。それは、意欲が足りないわけではなく、当然出てくるものだ。

問題は、この育成責任者の「NO」に対して、共感と安心をもたらすことが出来ないからだ。育成責任者のあなたが、エンジニアの中で出てくるNOを、強引に、YESに変化させてしまうと、それは確かにNOになる。あなた自身も、それを共感すればよい。「それは確かに不安だし、やったことがないから大変だよな」と、共感と安心を示すことが大切なのだ。

エンジニアも感情は「NO」であっても、頭では、営業的な役割が必要なことは理解はしているのだ。お互いに共感があったうえで、では、自社に当てはめて考えていくにはどうしたらよいか?と考えることから育成がスタートする。

そして、やることはシンプルである。

  1. 商談ロープレよりも「案件振り返り」
    • 実際にあった案件や定例会議を題材に、どこで話がズレたか、どこで信頼を得られたかを振り返る。
  2. 技術レビューと同じように「提案レビュー」
    • コードレビューをするように、提案内容もレビューする。どんな質問をしたか、どう深掘りしたか。
  3. 評価指標を「受注」ではなく
  • 追加受注率
  • リピート相談
  • 顧客からの改善要望件数
  • 手戻り削減

これらを指標にする。短期的な受注数ではなく、長期的な信頼の積み上げを評価する。

つまり、営業を教えるな。気の利き方を言語化せよ。これが、エンジニアの育成責任者が最初にやるべきことである。こうした内容に関して、弊社の方では実績と知見があるので、一度問い合わせをいただけると嬉しい。

「営業って言葉が嫌われる」への処方箋

最後に、ちょっとしたTipsを入れて終わりにする。「現場の抵抗感をどう減らすか」ということだ。

  1. 社内名称を変える
    • 営業力 → 窓口力/運用フォロー力/案件推進力
  2. 評価の仕方を変える
    • 「売れた」ではなく、「揉めなかった/前に進んだ/顧客から相談が増えた」

言葉を変えるだけで、現場の受け止め方は劇的に変わる。「営業をやれ」ではなく、「いつもの運用フォローを、もう少し丁寧にやろう」というメッセージになる。

気の利くSEは、売り込まない。でも、自然と選ばれる。

エンジニアに営業力をつけさせたいなら、まずは「営業」という言葉を脇に置くことから始めてみて欲しい。必要なのは、既存顧客との日々の会話の中で、背景を聞き、前提を揃え、次の一手を決める力である。それができれば、成果は後からついてくるのだ。もし、育成責任者として、お困りであれば、以下の記事も役に立つので読んでみるとヒントがあるかもしれない。

あわせて読みたい:「気の利くSE」を育てるために

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