研修に自社を当てはめる時点で失敗する理由 ──研修の効果が出ない会社に共通する構造

「研修を入れたのに、結局あまり変わらなかった」人材育成のご相談で、この言葉を聞かないことはほとんどない。

テーマは良さそうだった。講師の話も分かりやすかった。アンケートの満足度も悪くなかった。それでも、数ヶ月後に現場を見渡すと、行動はほとんど変わっていない。このとき、多くの会社はこう考える。

  • 次は、もう少し違う研修を入れた方がいいのかもしれない
  • この会社には、別のテーマが合っているのかもしれない

しかし、問題はそこではない。研修に自社を当てはめにいった瞬間に、育成はほぼ失敗が決まっているのである。

「当てはめ型研修」とは何か

当てはめ型研修とは、下記のような進み方をする育成である。

  • 研修会社が用意したメニュー一覧から選ぶ

  • 「階層別」「テーマ別」「トレンド別」に組み合わせる

  • 自社の課題に“近そうなもの”を当てはめる

一見、合理的に見える。選択肢も多く、実績もあり、安心感もある。だが、この構造には致命的な弱点がある。それは、課題の定義が研修側に寄ってしまうという点だ。

本来、育成はこうあるべきだ。

  • 現場で何が起きているのか(現状の確認)

  • どの行動が、どこで止まっているのか(課題の抽出)

  • 何が変われば「前進した」と言えるのか(変化の予測)

これらを整理したうえで、「そのために研修をどう使うか」を考える。しかし当てはめ型では順番が逆になる。「この研修で何とかならないか?」から思考が始まるのである。

なぜ「当てはめ」が起きるのか

当てはめが起きる理由は、個人の能力不足ではない。構造の問題である。

研修会社の事情と企業側(人事・育成担当)の事情

まず、研修会社側にはこうした事情がある。

  • 汎用化されたカリキュラムの方が売りやすい

  • 成功事例は“型”として語った方が分かりやすい

  • 柔軟に設計を変えると、工数もリスクも増える

一方、企業側(特に人事・育成担当)にも事情がある。

  • 現場の課題を深く言語化する時間が取れない

  • 上司や事業部に踏み込めない

  • 「失敗しなさそうな選択」を求められる

その結果、「実績がある研修を、自社に当てはめる」という、もっとも安全そうな選択がなされる。だが皮肉なことに、この安全な選択こそが、育成を空回りさせる。そして、この方法で長い時間、育成を行っていた組織は、働き方改革や個人の時代と言われている中、「採用がしづらい」「優秀な人が離職する」などの問題が出ている。

当てはめ研修が生む3つの副作用

当てはめ型研修には、共通する副作用がある。

① 現場の温度が上がらない

研修で使われる言葉が、どこか借り物になる。「一般論としては分かるが、うちの話ではない」現場にそう思われた瞬間、行動変容は止まる。

② フォローが属人化・形骸化する

研修後、「現場でフォローしてください」と言われるが、何を、どこまで、どう見ればいいのかは曖昧なまま過ぎてしまう。

結果、

  • 上司によって温度差が出る

  • 忙しさを理由に流れる

  • 結局、人事が一人で抱える

こうして、研修は“やりっぱなし”になる。

③ 「研修を変える」ループに入る

成果が出ないと、次にやることは決まっている。

  • 別のテーマを足す

  • 別の会社を試す

  • 研修を増やす

だが、根本の構造が変わっていないため、結果も変わらない。研修だけが増え、育成は進まない。

さて、ここまでを通していかがだろうか?「確かにそうだけど、今までもそうだったしなぁ」と感じているならば、それは黄色信号だ。

問題は研修の質ではない

ここで強調しておきたいことがある。当てはめ型研修は、内容が悪いわけではない。多くの研修は、よく設計されている。講師の質も高い。理論も妥当である。

問題は、自社の育成課題を「研修の型」に押し込めてしまうことだ。

育成とは、本来こういう問いから始まる。

  • この会社では、どんな行動が止まりやすいのか

  • なぜ、その行動が起きないのか

  • それはスキルの問題か、関係性か、前提の理解か

これを飛ばして研修を選ぶと、研修は「正しい話」にはなっても、「刺さる話」にはならない。

研修は「当てはめるもの」ではなく「再定義するもの」

では、どうすればいいのか。答えはシンプルである。研修を選ぶ前に、課題を再定義することだ。

最低限、以下の3点を言葉にする。

  1. 現場で変えたい行動は何か

  2. それが変わったと言える基準は何か

  3. その変化を、誰がどこで観察するのか

この前提が揃っていれば、研修は初めて「使える道具」になる。逆に言えば、ここが曖昧なままでは、どんな研修も当てはめに終わる。

研修会社の違いは「メニュー」ではなく「問い」に出る

これで最後になるが、研修会社を見極めるとき、多くの人はこう見る。

  • どんな研修がありますか

  • どんな実績がありますか

  • どんなフレームワークを使いますか

だが、本来見るべきなのはそこではなく、下記のような点である。

  • 「今回、何が変われば成功ですか?」と聞いてくるか

  • 「それは、こういう行動のことですか?」と定義を確認してくるか

  • 前提そのものを問い直してくるか

研修会社の差は、“問い返し”の質に出る。研修に自社を当てはめるのではなく、自社の課題に合わせて、研修の意味を再定義する。そこから始めた育成は、同じ研修でも、まったく違う結果を生む。ぜひ、参考にしていただければ嬉しい。

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