なぜ“ご挨拶”で終わるのか。IT/SIer営業が2回目訪問につながらない本当の原因
ヒアリング力をより実践的に強化するためのプロジェクト型トレーニングを行う際、必ずといってよいほど出てくる営業の悩みが「一度は会えたが、2回目の訪問につながらない」ということだ。これは、IT/SIerの営業現場で、非常によく聞く悩みである。
話を聞いてみると、人脈はあるし、紹介もある。初回のアポイントはそんなに難しくなく、取れる。それでも、多くの商談が“ご挨拶で終了”してしまう。これは、なぜなのか。結論から言えば、「営業力不足」ではなく、顧客の立場に立てていないことに原因がある。
目次
「課題を聞けていない」から2回目の訪問につながらないのではない
2回目につながらない理由として、よく挙げられるのが次のような反省である。
-
課題を引き出せなかった
-
相手が困っていなかった
-
タイミングが合わなかった
しかし、初回の訪問だけで、そんなに素早く・深く話が聞けるものだろうか。さらに言えば、顧客もそのようなニーズを顕在的には持ち合わせていない。課題が明確ならまだしも、まだ不明確「どんな会社なんだろう」「どんな人が来るのだろう」という程度でしか考えていないのが実情だ。
そのため、IT/SIerの営業において、1回目で“課題が出てこない”のは、ほぼ当然である。なぜなら、顧客自身がまだ「課題を整理できていない」状態であることが多いからだ。
IT/SIer特有の顧客状況
IT/SIerの顧客は、一般的な「モノ売り」の顧客とは大きく異なる。
-
人や技術をどう使うかを考えている
-
投資判断が単年度で完結しない
-
複数部門・複数立場が関わる
さらに重要なのは、顧客の意思決定が「定期」と「不定期」で揺れ動く点である。
定期・不定期で動く意思決定

たとえば、
-
年度予算が降りてくるタイミング
-
中期計画・来期計画の策定時期
-
人事異動・組織改編のタイミング
これらは、ある程度予測できる。このタイミングでは、顧客は「来期、何をやるか」「何をやらないか」を考えている。一方で、IT/SIerの世界には突発的に動く判断も多い。
-
急なトラブル対応
-
人が足りなくなった
-
想定外の案件が動き出した
このとき、顧客は「今すぐ相談できる相手は誰か?」ここで名前が上がらなければ、どれだけ良い提案でも、声はかからない。多くの営業は、この違いを意識せずに同じアプローチをしてしまう。
情シス・IT部門の意思決定は「プロジェクトの前」に起きている
当然なのだが、以外に忘れられることが多いのが「意思決定者は、いつから考えるのか?」ということだ。この答えは明確で、プロジェクトの“前段”だ。多くの場合、下記のような時に「どう進めるか」を考え始める。
-
上位方針(中期計画・DX方針・IT戦略)が降りてきたとき
-
来期・補正予算を“どう作るか”を考え始めたとき
-
まだ要件が固まっていない、モヤモヤした段階
そして、このタイミングで、頭の中ではすでに「誰と一緒に考えるか」が選別され始めている。ここで求められているのは、完成された提案や見積ではない。
「この人と話すと、状況が整理され、社内で説明できる形になる」
そう思える相手かどうかである。IT/SIerは、モノを売る仕事ではない。人・技術・進め方を組み合わせ、意思決定を前に進める“思考のパートナー”として選ばれる仕事である。だからこそ、ご挨拶営業で終わるか、次につながるかは、「今、何を売れるか」ではなく「相手が、いつ・何を考えているかを理解しているか」で決まる。
ご挨拶営業で終わる理由
多くの営業は、「今、何が欲しいですか?」「うち、◯◯力あります」と聞きながら説明をしてしまう。
しかし顧客は、
-
今は考えていない
-
まだ整理できていない
-
話していい相手か判断できていない
という状態にある。
その結果、
-
自社紹介だけして終わる
-
実績の話で終わる
-
「また何かあれば」で終わる
つまり、顧客の“思考フェーズ”や“思考スケジュール”と噛み合っていない。これが、ご挨拶で終わる最大の理由である。
IT/SIer営業に求められる立ち位置
IT/SIerは、モノを売っているのではない。
-
人
-
技術
-
組み合わせ
-
進め方
を売っている。だからこそ、顧客はこう思える相手を探している。
「この人と話すと、自分たちの考えが整理される」
「この人と話すと、生産性の高い打ち手が出てきそうだ」
これは、価格や実績よりも前に判断されている。よく声がかかる営業・技術者というのは、自然に(もしくは意図的に)、このような動きをしていることが多い。
2回目訪問につながるIT/SIer営業がやっていること
2回目につながる営業は、1回目で売ろうとしない。代わりに、次のようなことをしている。
-
業界全体の動きの共有
-
他社で起きている変化の整理
-
顧客の立場を言語化して返す
つまり、「今すぐの課題」ではなく「これから考えるべき論点」を一緒に置いて帰る。その結果、顧客の中に「この話、もう少し続けたいんだよな」という感覚が残るのだ。
2回目訪問を生むために必要な視点
IT/SIer営業で重要なのは、「課題を聞き出すこと」や「うまく提案すること」という、ヒアリング力と提案力が求められると思われている。ただ、そうしたスキル取得以前に行わなければいけないのが「顧客の視点」に立つという実践だ。
顧客の年間スケジュールの中で“自分・自社は、今どこに立っているのか”を理解すること
である。定期で考えるタイミングなのか。不定期の相談相手になれているのか。そこを外したままでは、商談は前に進まない。だからこそ、初回面談を終えた会社においては、しっかりと顧客の年間スケジュールとそこから考えられる思考スケジュールを、考え、可視化することが大切だ。
ご挨拶営業を抜けるために
1回目訪問の目的は、案件化ではない。「この人とは、また話す意味がある」と、思ってもらうことである。
IT/SIer営業とは、人月・課題・技術を売る仕事だと勘違いしやすい。しかし、AIが台頭し、それらが単体では意味や価値を持ちにくくなっている。これからのIT/SIer営業は、「整理」を売る仕事に変わっている。課題を整理できる“パートナー”として選ばれる仕事なのだ。
ここに立てたとき、ご挨拶営業は、確実に次のフェーズへ進み始める。
あわせて読みたい:IT / SIer営業で2回目訪問へつなげるために
- 【スキル】
(「相手の言葉をそのまま返す」という姿勢が、具体的にどうビジネスの結果(1億円の受注)に結びつくのか?現場での劇的な変化を具体的に紹介しています)「聞く」を変えたら、1億円の受注が生まれた──技術者が学んだ“対話の力” - 【マインド】
(ヒアリングのズレが、最終的にどう「刺さらない提案」になってしまうのか。個人の能力の問題ではなく、構造的な問題として解決するための視点を整理しました)SIer営業に多い「刺さらない提案」の原因と解決アプローチ - 【深掘り】なぜIT/SIer企業に提案型営業への転換が最も必要なのか――「御用聞き」モデルが限界を迎えた、業界構造のリアル(「理解したつもり」が商談のズレを生みます。自分の解釈を捨て、相手の言葉をそのまま返すだけで提案力は劇変。対話の極意を公開します)

