人材育成がうまくいかない会社に共通する「研修以前」の問題
人材育成がうまくいかない。この悩みは、業種や規模を問わず、多くの企業で聞かれる。そして多くの場合、最初に検討される打ち手は「研修」である。新しいテーマの研修、有名講師の研修、最新トレンドを取り入れた研修。しかし、時間もコストもかけているにもかかわらず、現場に大きな変化が起きない。そんな経験をした企業も少なくないだろう。
ここで重要なのは、研修の良し悪しを論じることではない。多くの場合、問題は研修そのものではなく、研修以前の段階ですでに詰まっているのである。本記事では、人材育成がうまくいかない会社に共通する「研修以前」の問題を整理し、なぜ研修を入れても成果につながらないのかを構造的に考えていく。
目次
「育成=研修」になっていないか
人材育成という言葉を聞いたとき、よく出てくるキーワードが「研修」だ。そのため「どんな研修を入れるか?」が真っ先に浮かぶ会社は多い。しかし、本来の育成とは、日常業務の中で人が変化していくプロセス全体を指す。
例えば「子育て」という言葉を聞いた時に、真っ先に「どんな学校に入れるか?」と考える家庭は少ないだろう。それよりも「大変だけど楽しい」「子供が幸せになってくれたら・・」など、自分が日常生活の中で、育てる感覚を持って話をするだろう。
人材育成も同じ話だ。研修はその一部であり、あくまで日常業務における育成の補助装置に過ぎない。にもかかわらず、
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育成の議論が研修の話だけで終わる
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課題整理より先に研修テーマが決まる
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研修を実施したことで「育成をやった気」になる
こうした状態に陥ると、研修はどれだけ良質でも、本当に空回りするのだ。
研修以前の問題①:現場の課題が言語化されていない

育成がうまくいかない会社では、「何が問題なのか」が曖昧なまま研修が進むことが多い。
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主体性が足りない
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コミュニケーション力を上げたい
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視座を高めてほしい
これらは一見もっともらしいが、現場の行動と直接つながっていない。
誰の、どの場面で、どんな行動が変われば「良くなった」と言えるのか。ここが言語化されていない状態では、研修は「当てはめ」になる。そのため、研修会社の持っている型を、現場に被せるだけになり、終了後に「良い話だったね」で終わってしまうのである。
研修以前の問題②:成果が“状態だけ”で定義されている
育成の成果が、
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意識が変わる
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マインドが整う
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視野が広がる
といった“状態だけ”で語られている場合も要注意である。
これらは否定されるものではないが、状態+行動に落ちない限り、検証も改善もできない。本来、育成の成果は「誰が・いつ・何をするようになったか」で定義されるべきである。
たとえば、
- 会議で発言が増えた
- 顧客との打ち合わせで質問の数が増え、顧客から良いフィードバックが頂けるようになった
- 上司への報告内容が具体的になった
こうした行動レベルの変化が見えなければ、育成が進んでいるかどうかは判断できない。
研修以前の問題③:上司・現場が育成の当事者になっていない
弊社は、研修の中間・終了後に、上司側向けの「報告会」を設けているが、会社によって、この会に参加するメンバーは様々である。まず、育成が整っていない会社は、メンバーが固定・少人数(上司が来ない)ということが多い。逆に、積極的な育成姿勢がある会社は、直属の上司が参加するなど、講師からのフィードバックを聞いて「現場にどう活かせばよいか」という質問が出てくる。
このように、育成が人事部や外部研修会社に委ねられ、現場の上司が「送り出す人」になっている構造は、人が育たない文化の典型である。そして、これは非常に多い構造である。
現場での行動変化を最も観察できるのは上司であり、日常的に問いを投げ、承認できるのも上司である。にもかかわらず、
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研修後に何を見るかが決まっていない
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上司が「どうだった?」で終わらせている
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育成が業務とは別枠になっている
この状態では、研修の学びは現場に定着しない。育成は、研修室ではなく現場で起きる現象だからである。
研修以前の問題④:正解を求めすぎている
弊社でも聞かれることがあるのは、以下の3つだ。
- 最近のトレンド研修
- 有名企業がやっている研修
- 今流行っているフレームワーク
これらを重視する理由は「現場をみていないから」もしくは「育成担当や人事部が現場にアクセスできない状態だから」だ。現場の声を聞いて課題を抽出していれば、上記3つは参考程度にすぎない。
そして、正解そうなものを選んだ結果、
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現場の温度と合わない
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言葉が借り物になる
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実践すると違和感が出る
こうして、育成は形骸化していく。育成において重要なのは、正しさより適合度である。
では、研修の前に何を整えるべきか

研修を検討する前に、最低限整理しておきたいことは多くない。むしろ、以下の3点だけで十分である。
- 現場の課題を、行動レベルで言語化すること。
- 「できたと言える基準」を決めること。
- その変化を、誰が・どの場面で観察するのかを決めること。
この3点が揃って初めて、研修は意味を持つ。逆に言えば、ここが曖昧なまま研修を入れても、成果は出にくい。
研修は“変化の起点”だが、日常業務の延長線上にある
研修は魔法ではない。人を一気に変える装置でもない。研修とは、日常の行動と関係性の中で起きる変化を加速させるための運用設計の一部である。
人材育成がうまくいかないと感じたとき、「次はどんな研修を入れるか」を考える前に、一度立ち止まり、「研修以前」を見直してみてほしい。多くの場合、答えはすでに現場にある。それを言語化し、観察し、育てていく。そこから始めた育成は、同じ研修でも確実に手応えが変わってくるはずである。
そして、親が子供を客観的にみれないように、自社の上司が自社の部下・現場を客観的にみるのは難しい。だからこそ、我々のような専門家を使って、壁打ちをしていただけると嬉しい。
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