なぜIT/SIer企業に提案型営業への転換が最も必要なのか――「御用聞き」モデルが限界を迎えた、業界構造のリアル
「提案型営業に転換しよう」この言葉を、IT/SIer業界で聞かない日はない。しかし現場では、
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提案したつもりでも価格競争に巻き込まれる
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技術の話をしているうちに、顧客の本音が見えなくなる
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要件定義後に「話が違う」と炎上する
といった声が後を絶たない。なぜIT業界では、これほどまでに「提案型営業への転換」が難しく、かつ切実な課題になるのだろうか。
目次
「御用聞き(受託型)」と「提案型(価値提供型)」の決定的な違い
まずは、よく語られる両者の違いを整理してみよう。
| 項目 | 御用聞き・受託型(従来) | 提案型営業(転換後) |
|---|---|---|
| スタンス | 顧客の「欲しいもの」を聞く | 顧客の「解決したい課題」を見つける |
| 付加価値 | 工数(人月)の提供 | 経営課題の解決・IT投資対効果 |
| 成果物 | 仕様書通りのシステム | 業務変革・生産性向上 |
| 価格決定権 | 顧客(相見積もり) | 自社(専門性・価値) |
| AIとの関係 | 代替されやすい | 代替されにくい |
IT/SIerの部長陣や経営ボードは、上記のような事を考え、中計に「価値創造型人材」「ソリューション提案」を基軸とした育成・サービスの展開を打ち出しているはずだ。しかし提案型営業に、軽やかに移っているケースは今のところ多くは見受けられない。すると問題は「なぜIT/SIer業界では、提案型営業への移行が特に難しいのか」を掘り下げることにある。
1. 顧客自身も「正解」がわかっていない
弊社が支援してきたSIerの現場では、こんな声をよく聞く。
「お客さんの要望通りに作ったはずなのに、結局使われないんです」
ITシステムは、
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目に見えない
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構造が複雑
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業務や組織と密接に絡む
という特性を持つ。そのため、顧客が口にする「この機能が欲しい」「この仕組みを入れたい」という言葉は、必ずしも本当の課題を表していない。IT業界では「言われた通り作ること」自体が、最大のリスクになるケースが少なくない。
だからこそ、「何を作るか」以前に「なぜそれが必要なのか」を掘り下げるヒアリングが不可欠になる。
2. 多重下請け構造から抜け出せない現実
SIer業界では、
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下流工程に行くほど利益率が下がる
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労働時間は増える
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価格決定権を失う
という構造的な問題がある。
現場の技術者からは、こんな本音も聞こえてくる。
「上流に行けと言われるが、どう踏み込めばいいかわからない」
提案型営業とは、単なる営業手法ではない。業界構造から抜け出すための“生存戦略”でもある。
3. 技術のコモディティ化とAIの台頭
AIの進化により、
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プログラミング
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基本設計
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仕様書作成
の一部は、すでに自動化され始めている。
このとき、人間に残る役割は何か。それは、顧客の曖昧な悩みを整理し、「何を作るべきか」を定義することである。つまり、ヒアリングと提案こそが、AI時代に最も価値が残る仕事になる。
提案型営業に挑む技術者が陥りがちな「ヒアリングの罠」

研修の中で、技術者や営業担当からよく出てくる声がある。
「顧客から要件を引き出そうとすると、つい技術の話をしてしまう」
「正しそうな解決策が見えてしまい、話を誘導してしまう」
これは能力不足ではない。IT業界ならではの“職業病”である。
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技術で役に立ちたい
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早く答えを出したい
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プロとして間違ったことは言えない
この姿勢が強いほど、顧客の「まだ言語化されていない本音」から遠ざかってしまう。
結果として起きるのが、
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要件定義の炎上
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「言った言わない」問題
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後出し要望の連発
である。
Relation Shiftの「ヒアリング力向上」が刺さる理由
弊社が提供しているのは、単なる質問テクニックではない。
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技術の話を“一度脇に置く”勇気
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顧客の言葉を“そのまま”捉える力
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「答えを出さない」ことで、ともに考えていく姿勢
これらを体系的に鍛えることで、単なる下請けからパートナーへと徐々に認められ、提案型営業への転換を「現場で再現できる力」に変えていけるのだ。
実際に現場からは、
「技術の話をしなくても、話が前に進む感覚が初めてわかった」
「研修でやったことを実践したら、顧客が勝手に話し出して、成約につながって驚いた」
といった声が上がっている。
提案型営業への転換は「スキル」ではなく「構造転換」である
IT/SIerにおける提案型営業への転換とは、営業だけの話でも、個人の才能の話でもない。
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業界構造
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技術の進化
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顧客との関係性
これらすべてが変わる中で、「どう顧客の話を聞くか」が、企業の競争力を左右する。だからこそ今、IT/SIer企業にとって提案型営業への転換は「最も必要なテーマ」なのである。
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