自社の営業組織はどの段階にいるか?IT/SIer企業の提案力3段階
「うちは課題解決型の営業をしています」と言う企業が、弊社にヒアリング力研修を依頼してくる。
これは矛盾ではない。「課題解決型だと言える」と「実際に課題解決できている」は、まったく別の話だからだ。弊社がこれまで支援してきたIT/SIer企業の営業組織を見ると、実態としては3つの段階のどこかにいる。そして多くの場合、自社がどの段階にいるかを正確に把握できていない。
この記事では、提案力の3段階を具体的なエピソードとともに解説する。「うちはどこだろう」と思いながら読んでもらえると、組織の現状が見えてくるはずだ。
目次
そもそも「提案力」とは何か
辞書で引くと提案とは「議案や意見を提出すること」だ。しかし営業現場では、この「提案」という言葉が段階によってまったく違う意味を持つ。
御用聞き状態の営業担当者にとって提案とは「回答」だ。強み提案状態では「アピール」になる。そして課題解決提案では「共創」になる。
同じ「提案します」という言葉でも、意味が違う。だからこそ「提案力を上げよう」という掛け声だけでは、現場は変わらない。
営業提案力の段階①殿様状態

殿様状態の提案というキーワードから想起されるイメージは「回答」である。詳しく見ていこう。
どんな組織に多いか
- 太客によって長年続いている企業
- 下請け先として認知が定着しており、何もしなくても仕事が振られてきた企業
- 既存システムを長年保守しており、顧客との関係が固定化している企業
状態の説明
発注元から「◯人集めて」「この機能を追加して」という要望が先に来て、それに対して「できます・できません」を回答しているだけの状態だ。自分たちから提案する必要がない、あるいは提案しなくても利益が出ているため、ヒアリング力・提案力が鍛えられる機会がないまま過ごしている。
「俺たちがいないと、あの会社は動かないんだから」
──こういう声が社内から聞こえてくる組織は、殿様状態にいる可能性が高い。
殿様状態の企業は、先行者利益で獲得してきたシステム・商品・サービスがある。確かに、それらがなければ、顧客の業務は止まるかもしれない。しかし現実には「顧客が、頑張ればリプレイスできる」状況でも、顧客がまだ動いていないだけというケースは少なくない。
危機感がないから、ヒアリングも提案も鍛えられない。これが殿様状態の本質的なリスクだ。
営業提案力の段階②御用聞き状態

御用聞き状態の提案というキーワードから想起されるイメージは「対応」である。詳しく見ていこう。
どんな組織に多いか
- IT/SIer企業全般に非常に多い
- エンジニア出身の営業担当者が多い組織
- 「顧客に寄り添う」「信頼関係を大切にする」を掲げている
状態の説明
「顧客に信頼されるようにモノづくりをする」という真面目な姿勢がある。言われたオーダーに対して期待値以上のアウトプットを出そうとする。これ自体は素晴らしい仕事だ。
しかし問題は、その「信頼のされ方」が御用聞き止まりになっていることだ。
「ちゃんとヒアリングして、要件通りに作ったのに、なぜか使われなくなった」
──IT/SIer営業の現場でよく聞く声
情報が溢れており、ニーズが多様化している。そのため、顧客自身が、そのオーダーで良いのか自信を持てない時代だ。「この機能が欲しい」という言葉の裏に、本当は何を解決したいのかが隠れている。
御用聞き状態では、そのオーダーをそのまま受け取ってしまう。SWOT分析や自社の強みを整理する前に、まず「顧客が本当に欲しいものは何か」を直接相手に問わなければ、どれだけ丁寧に作っても、的外れになるリスクがある。
営業提案力の段階③強み提案状態

強み提案状態の提案というキーワードから想起されるイメージは「アピール」である。詳しく見ていこう。
どんな組織に多いか
- SaaS系など新興のIT企業
- 新市場を開拓しているベンチャー企業
- 「営業力を上げよう」と研修や採用に投資し始めた組織
状態の説明
顧客から要望が来たとき「受けられる+自社の強みのアピール」を欠かさない。あるいは要望がなくても、自社の良いところを積極的にPRしていく。御用聞き状態よりも積極性があり、初回面談のアポは取りやすい。
「初回の商談はうまくいくのに、2回目の提案につながらない」
──強み提案状態の組織でよく起きる現象だ。
なぜ2回目につながらないのか。自社の強みを伝えることが優先になっており、顧客の課題を深く聞けていないからだ。顧客からすると「この会社が何をしているかは分かった。でも、うちの問題を解決してくれるかどうかは分からない」という状態で終わっている。
「強みを伝えれば分かってもらえる」という前提が、2回目の壁を作っている。
営業提案力3段階の比較
|
|
段階1 殿様状態 |
段階2 御用聞き状態 |
段階3 強み提案状態 |
|
提案のイメージ |
回答 |
対応 |
アピール |
|
多い業種・組織 |
太客依存・長年の下請け企業 |
IT/SIer全般・エンジニア営業 |
SaaS系・新興ベンチャー |
|
現場の症状 |
「俺たちがいないと動かない」社内の過信 |
要件通り作ったのに使われない |
初回面談は取れるが2回目につながらない |
|
本質的なリスク |
リプレイスされても気づけない |
顧客の本音に届かず関係が浅いまま |
顧客の課題より自社の強みが先に来ている |
目指すべきゴール:課題解決提案状態
「うちは課題解決型の営業をしています」と多くの企業が言う。しかし弊社の経験上、実際に課題解決提案ができている組織にはほとんど出会っていない。
なぜなら、課題解決提案ができている組織は、そもそもヒアリング力の研修を必要としないからだ。逆に言えば、弊社に依頼してくださる組織の多くは、先ほどの3段階のどこかにいる。
課題解決提案とは、顧客自身が言語化できていない課題を対話の中で引き出し、その解決策を顧客と一緒に設計できる状態のことだ。
これは個人のセンスではなく、組織として訓練できるものだ。勘違いしないで頂きたいのは、段階は1〜3へとステップアップされるものではない。大切なのは、自分たちがどの段階にいるのかを「自覚」するところにある。その「自覚」が社内の共通用語・共通認識として取れれば、どの段階であっても、次のステップは「課題解決型」へと向かうことができる。
段階を上げることではなく、自覚を深めること。それこそが最初のゴールだ。
▶ 関連記事:【IT/SIer】営業のヒアリング力を組織で上げるには?育成担当者が知るべき本質
自社の営業組織、今どの段階にいますか?
5問の診断で、殿様・御用聞き・強み提案のどの状態かが分かります。
現状を把握することが、提案型営業への転換の出発点です。
※診断結果はその場で確認できます/匿名でOK(名前入力なし)
まとめ:まずは現状を正確に把握しよう
提案力の3段階を整理した。
- 段階1・殿様状態:発注が来るだけ。「俺たちがいないと動かない」という過信がリスク。
- 段階2・御用聞き状態:IT/SIerに最も多い。真面目に作るが、顧客の本音に届かない。
- 段階3・強み提案状態:積極性はある。しかし自社の強みが先に来て、2回目につながらない。
重要なのは「課題解決提案を目指す」ではなく、「まず自社がどの段階にいるかを正確に把握する」ことだ。現状認識なくして、変化は起きない。
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