モチベーションマネジメントとは?基本的な考え方と実践例
現代のビジネス環境において、従業員のモチベーションをいかに維持し高めるかは、企業の成功に直結する重要な課題である。少子高齢化や労働力不足、リモートワークの普及など、多様な環境変化に直面している日本企業は、従来の管理手法に限界を感じ始めている。特に、管理職になりたがらない社員が増加している現状では、モチベーションマネジメントの重要性はますます高まっている。
本記事では、モチベーションマネジメントの基本的な考え方と、具体的な実践例を紹介しつつ、現代の企業に適したモチベーションマネジメントの方法論を提案する。モチベーションの源泉を理解し、それに応じたアプローチを実施することが、組織の成長にどのように貢献できるかを探っていく。
目次
モチベーションマネジメントとは何か
モチベーションマネジメントとは、従業員が仕事に対して持つ意欲ややる気を引き出し、それを持続させるための施策や管理手法である。単に報酬や福利厚生を提供するだけではなく、個々の従業員の内的な動機付け要因に働きかけることが重要である。モチベーションは、個々の価値観や欲求に基づいて形成されるため、組織はそれらを正確に把握し、適切に対応する必要がある。
このようなアプローチが必要とされる背景には、労働環境の変化がある。特に、プライベートと仕事のバランスを重視する風潮が広がる現代においては、従来の昇進や高収入を目指すモチベーションモデルでは不十分になりつつある。そのため、組織は新たなモチベーションの源泉を見出し、それに応じた戦略を取ることが求められる。
今の時代にモチベーションマネジメントが必要な理由
労働環境の変化により、現代版のモチベーションマネジメントが必要な旨を述べたが、さらなる理由もいくつか考察していきたい。
1.生産性の向上
少子高齢化、高度IT人材の獲得など、人材不足が深刻化する中、限られた人員で最大限の成果を出すために、個々の社員の生産性向上が不可欠となっている。モチベーションの高い社員は業務に対して意欲的に取り組み、高い成果を上げる傾向がある。適切なモチベーションマネジメントにより、組織全体の生産性を向上させることが可能である。
2.従業員エンゲージメントの向上
モチベーションマネジメントは、社員の会社に対する信頼や愛着を示す従業員エンゲージメントの向上にもつながる。個々の社員を尊重したマネジメントにより、社員は自分が会社に大切にされ、期待されていると感じるようになる。これにより、離職率の低下や組織への貢献意欲の向上が期待できる。
3.変化する働き方への対応
先述したものと被る部分もあるが、働き方改革の文脈はやはり外せない。テレワークの増加など、働き方が多様化する中で、社員の自律性を高めることが求められている。これは、現代の変化の激しいビジネス環境において、組織の適応力と競争力を維持するために不可欠である。
これらの理由から、モチベーションマネジメントは現代の組織運営において重要な役割を果たしており、企業の持続的な成長と成功に直接的に寄与する戦略的な取り組みである。
4.「管理職になりたがらない社員」問題への対策
これはクライアントからも、よく伺う話であるが、多くの企業が「管理職になりたがらない社員」問題に直面している。その主な理由として挙げられるのが「責任を負いたくない」という点だ。働き方の変化から、仕事だけでなくプライベートも充実させたいと考えており、彼らのモチベーションは、仕事そのものの充実感だけではなく、ワークライフバランスの確保にも依存している。
こうした背景から、企業が効果的なモチベーションマネジメントを実施しなければ、優秀な人材を失うリスクが高まる。逆に、適切なモチベーションマネジメントが行われれば、従業員のエンゲージメントが向上し、業績の向上にもつながる。リモートワークや柔軟な働き方が浸透する中で、従業員のニーズや働き方に応じたモチベーション管理が、企業の成長に欠かせない要素となっている。
モチベーション把握の3STEP
では、どのようにモチベーション管理をしていけばよいのか。当然のことだが、モチベーションを効果的に管理するためには、まず現状を正確に把握し、その上で具体的な対策を講じる必要がある。ここでは、モチベーション管理のための3つのステップを紹介する。
1. 現状の調査分析
最初のステップは、現状のモチベーションレベルを把握することである。これには、従業員の満足度調査や、日常の業務でのパフォーマンス評価、アンケート調査などを用いる。現場の声を聞きながら、組織全体としてどの程度のモチベーションを持っているのかを分析することが重要である。特に、従業員がどのような欲求や課題を抱えているかを理解することが不可欠である。
2. 対策の検討・検証
次に、調査結果を基に、具体的な対策を講じる。この段階では、従業員のモチベーション向上に寄与する施策を検討し、その効果を見極めるための小規模な試験導入を行うことが推奨される。例えば、ワークライフバランスの向上を図るために、柔軟な勤務時間制度の導入や、リモートワークの拡充が考えられる。また、評価制度や昇進基準の見直しも有効な施策となる。
3. 効果の分析
最後に、導入した施策の効果を分析し、必要に応じて調整を行う。この段階では、モチベーションの変化を定量的に評価し、その結果を元に改善策を講じることが重要である。導入した施策がどの程度の効果を上げているのかを把握することで、今後の方針を決定するための貴重なデータが得られる。
モチベーションマネジメントの要諦 – 何を刺激すべきか –
モチベーション管理のステップを説明したが、では、どのような事を思考の基準として、進めていけばよいのだろうか。モチベーションマネジメントの成功は、従業員の内的な欲求にどのように働きかけるかにかかっている。ここでは、代表的なモチベーション理論を参考に、何を刺激すべきかについて、参考になりそうなアプローチを紹介する。
マズローの欲求5段階説
アブラハム・マズローが提唱した「欲求5段階説」は、モチベーション理論の基本的な考え方として広く知られている。人間の欲求は、以下の5つの階層に分かれており、下位の欲求が満たされると次の欲求に移行するとされている。
- 生理的欲求:食事や睡眠など、生存に必要な基本的欲求。
- 安全欲求:安心して生活できる環境を求める欲求。
- 社会的欲求:他者とのつながりや集団に属することを求める欲求。
- 承認欲求:他者からの評価や尊敬を求める欲求。
- 自己実現欲求:自分の能力を最大限に発揮し、自己成長を遂げる欲求。
これらの欲求に基づいたアプローチを取ることで、従業員のモチベーションを高めることが可能である。例えば、安全欲求が強い従業員には、安定した雇用や適切な福利厚生が効果的であり、自己実現欲求が強い従業員には、キャリア開発の機会を提供することが有効である。
ハーズバーグの二要因理論
ハーズバーグの二要因理論では、モチベーションを「動機付け要因」と「衛生要因」に分けて考える。動機付け要因は、従業員が仕事に対して感じる満足感を高める要因であり、衛生要因は不満を防ぐための要因である。
- 動機付け要因:達成感、責任、昇進など。
- 衛生要因:給与、職場環境、人間関係など。
ハーズバーグの理論によれば、衛生要因を改善するだけではモチベーションは向上しないが、不満の要因を取り除くことはできる。一方で、動機付け要因を強化することで、従業員のモチベーションを向上させることができる。
マクレランドの欲求理論
マクレランドは、欲求を「達成欲求」「権力欲求」「親和欲求」の3つに分類した。
- 達成欲求:成果を上げたいという欲求。
- 権力欲求:他者に影響を与えたいという欲求。
- 親和欲求:他者と良好な関係を築きたいという欲求。
この理論を用いることで、従業員の動機付け要因を明確にし、個別の欲求に応じた対応が可能となる。例えば、達成欲求が高い従業員には、具体的な目標を設定し、達成感を得られるような仕事を与えることが有効である。
モチベーションマネジメントの成功事例
上記のような試行錯誤と考え方に基づいて、いくつかの企業では、独自のモチベーションマネジメント施策を導入し、成功を収めている。ここでは、代表的な企業の成功事例を紹介する。
資生堂:カンガルースタッフ制度
資生堂は、仕事と育児の両立を支援するために、2000年に「カンガルースタッフ制度」を導入した。この制度では、小学校3年生までの子どもを持つ社員が短時間勤務を選択できる育児時間制度を設けている。また、育児に専念するビューティーコンサルタントに代わり、カンガルースタッフが夕刻以降の顧客対応や店頭業務を担当する。この制度により、育児中の社員がキャリアを中断せずに働ける環境が整備され、顧客サービスの質も維持されている。資生堂の多様性とインクルージョンの一環としても高く評価されている制度である。
小林製薬:ホメホメメール
小林製薬では、社長が直接従業員を賞賛する「ホメホメメール」を導入した。この制度は、従業員の承認欲求を満たし、やる気を引き出す効果がある。具体的なフィードバックが提供されることで、従業員は自身の成長を実感しやすくなり、モチベーションが向上した。
サイボウズ:育自分休暇制度とモチベーション創造メソッド
サイボウズは、自己成長を目的とした「育自分休暇制度」を導入し、従業員が自己実現欲求を満たせる環境を提供している。また、従業員が「やりたいこと」と会社が「やるべきこと」を共有し、マッチングさせるモチベーション創造メソッドも開発。これにより、従業員のやる気が維持され、成果に直結している。
弊社のモチベーションマネジメントプログラム
外部を使いながらモチベーション・マネジメントをする企業も多くおり、弊社でも、モチベーションマネジメントの専門的なプログラムを提供している。以下のプログラムは、主に管理職〜経営層のモチベーションマネジメント向上に効果があり、企業の成長に貢献するものである。
コーチングプログラム(経営層・本部長向け)
弊社のコーチングは、1:1ではなく弊社側が2名、クライアントが1名の2:1で行うことが特徴である。これは、コーチングを受けている本人のモチベーションを客観的に把握し、それが部下にどのように影響を及ぼしているのかをパーソナルに把握し、自覚を促すためである。トップのモチベーション・マネジメント力が向上することにより、その影響を受ける部下をはじめ従業員のモチベーションが上がる事は、自明の理である。
プロジェクト型研修(選抜研修)
弊社のプロジェクト型研修の特徴は、実際の事業課題から落ちてきた業務課題を通じて、成功事例を生み出すように動くよう、仕組みを設計している点である。実際の事業と関連付けて自発的に動く要素が多くあるため、従業員のスキルアップとモチベーション向上は当然行われる。
管理職研修(管理職向け)
弊社の管理職研修の特徴は、「役割と行動」にフォーカスを当てたシンプルな内容である。仕事が多くあると思われがちの管理職だが、実際に役割に基づいて仕事を整理すると、部下の役割を奪ってしまい、業務を勝手に増やしている事が多い。そのことに気付き、実際に仕事を振れるようになることで、自身の業務整理が行われ、結果的にモチベーション・マネジメントがしやすい状況になれる。
おわりに
モチベーションマネジメントは、現代の企業運営において極めて重要な役割を果たす。適切なマネジメントを通じて、従業員の生産性やエンゲージメントを高めることで、企業の持続的な成長が実現できる。
本記事で紹介した理論や事例、そして弊社のプログラムを参考に、組織に最適なモチベーション施策を実施し、変化するビジネス環境に柔軟に対応していくことが求められる。興味を持たれた方は、ぜひ我々にご連絡いただき、一緒に組織の成長をサポートしていけることを楽しみにしている。