提案の完成度を上げても案件化しないのはなぜか──エンジニアに共通する3つの見落とし
研修の宿題で、参加者に「顧客との提案・打ち合わせの失敗事例」を持ち寄ってもらったことがある。
集まった事例を並べてみると、業種も規模もバラバラなのに、いくつかの共通パターンが浮かび上がってきた。今回は、その中でも特に印象的だった3つのパターンを紹介したい。
パターン1:ヒアリングの前に、勝負が終わっている
「競合と競って受注できなかった。よく調べてみると、そもそもニーズ以前に、お客様と他社の間にすでに信頼関係ができていて、最初から決まっていた」
これは、提案の中身以前の問題だ。
どれだけ精度の高いヒアリングをしても、相手の意思決定がすでに固まっている状態では、覆すのは難しい。
ここで大事なのは、「もっと良い提案をすればよかった」という反省ではない。むしろ「その状態に、もっと早く気づけていたら、リソースの使い方を変えられたはずだ」という視点だ。
周辺情報──他社との関係性、意思決定のタイミング、キーパーソンが誰かなど──を早い段階で引き出せていれば、深追いすべき案件かどうかの見極めができたかもしれない。
パターン2:進め方そのものが、顧客のニーズとズレていた
「ウォーターフォールで案件を進めようとしたが、顧客は細かくサイクルを回してほしかった。そのニーズに気づけなかった」
このケースが興味深いのは、技術的な提案内容は間違っていなかったという点だ。ズレていたのは「何を作るか」ではなく「どう進めるか」だった。
顧客のニーズは、成果物の仕様だけに宿るわけではない。「どんなペースで」「どんな関わり方で」進めたいかという、進行プロセスそのものへの要望も、立派な”課題”である。技術的な各論(何を作るか)には反応できても、進め方に対する形容詞的な要望(急いでいる、細かく確認しながら進めたい、など)は聞き漏らしやすい。
パターン3:サービスありきで提案してしまう
「メタバースのシステム開発の実績があったので、それを軸に営業活動をした。良い反応はもらえるが、案件化しない」
自社の強みや実績を軸に提案を組み立てること自体は、悪いことではない。ただし、それが「顧客の課題は何か」より先に来てしまうと、話が噛み合わなくなる。
「このサービス、良いですね」と言われて終わる商談には、共通して「顧客の真のニーズに届いていない」という感触が残る。良い反応と、案件化は別物だ。
3つのパターンに共通すること
3つとも、起点は同じところにある。「なぜ」を聞けていない、ということだ。
- なぜ他社に決めているのか、その背景を聞けていない
- なぜウォーターフォールではなくサイクルを回したいのか、その理由を聞けていない
- なぜこのサービスが必要だと思うのか、顧客側の視点で聞けていない
提案の技術力や実績をどれだけ磨いても、この「なぜ」を素通りしたままでは、同じ場所でつまずき続ける。
失注事例を振り返るときは、「提案の中身」だけでなく、「ヒアリングのどの段階で、何を聞き漏らしていたか」に目を向けてみてほしい。
技術者に「顧客視点を持とう」と言っても、
「伝わってないなぁ〜・・」と、頭を悩ませていませんか?
そうは言っても、難しそうなんだよなぁ。
この記事を書いた人
西勝 譲
代表取締役社長/CMO
1987年埼玉県生まれ。組織人事コンサルティング、個人向けコーチング事業を経て、2018年にRelation Shift株式会社を設立。独自メソッド「問育®」を体系化し、IT・SIer企業のヒアリング力・提案力向上を専門に支援。東証上場企業を含む複数社へのエグゼクティブ・コーチングも担当。「正しい戦略があっても組織が動かない」という構造的な課題に、対話を通じて向き合い続けている。

