なぜエンジニアは「聞いているのに聞けていない」のか──傾聴力を阻む思考の癖

先日の研修で、こんな体験ワークを行った。

相手の話を聞いて、一字一句そのまま書き取ってみる。ただそれだけのシンプルなワークだ。

やってみると、多くの参加者が愕然とする。「聞けている」と思っていたのに、実際に書き起こしてみると、ほとんど再現できていないのだ。

素直な告白

ワークの後、参加者から出てきた感想が印象的だった。

「覚えやすいように、自分の中でフィルタリングしちゃう。今までの経験・知識が出てきて、キーワードだけ覚えている」

「聞くのって、すごい難しい。最初から思ってはいたけど、研修を通して、自分が実際に聞けていないというのは分かった」

「情報量が多すぎて、記憶できない」

これらはすべて、能力不足の話ではない。むしろ、経験を積んだ技術者ほど陥りやすい罠だ。

なぜベテランほど陥りやすいのか

技術者は、日々大量の情報を処理している。効率よく仕事を進めるために、重要な部分だけを抜き出し、自分の知識体系に当てはめて理解する力を磨いてきた。

これは技術的な業務においては、間違いなく強みだ。

ただし、顧客の話を聞く場面では、この強みが裏目に出る。

相手が話し終わる前から、「これはつまりこういうことだろう」と自分の経験に当てはめて先読みしてしまう。結果として、相手が実際に話した言葉ではなく、自分が変換した言葉だけが記憶に残る。

これが、私たちの研修で伝えている「INPUT→THINK→OUTPUTの独自循環」だ。本来は相手の言葉をそのまま受け取るべきところを、聞く段階からすでに自分の整理方法でフィルタリングしてしまっている。

「聞けている」と「理解している」は別物

研修中、ある参加者からこんな疑問も出た。

「自分の中で考えた上でコミュニケーションを取るのは大事なこと。でも、それだけだと自分の考え方を押し付けてしまう。相手とのズレが生じる。両立する方法を知りたい」

これは非常に本質的な問いだ。

自分の知識や経験を使うこと自体は悪くない。問題は、それを使うタイミングだ。

相手の話を最後まで、変換せずに受け取ってから、自分の知識を使って理解する。この順番であれば、知識は「理解を深める道具」になる。

逆に、聞いている最中から自分の知識で変換してしまうと、知識は「相手の話を歪める道具」になってしまう。

対策:オウム返しという”矯正ギプス”

一字一句そのまま聞く力を鍛える最もシンプルな方法が、オウム返しだ。

相手が話したことを、要約せず、変換せず、そのままの言葉で返す。

「◯◯ということなんですね」

この一言をはさむだけで、自分が本当に相手の言葉のまま受け取れていたかどうかが、その場で分かる。うまく返せなければ、それは自分がすでに変換してしまっていた証拠だ。

技術力がある人ほど、無意識に「分かった気になる」スピードが速い。だからこそ、一度立ち止まってオウム返しをする習慣が、聞く力の土台になる。

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この記事を書いた人

西勝 譲

西勝 譲

代表取締役社長/CMO

1987年埼玉県生まれ。組織人事コンサルティング、個人向けコーチング事業を経て、2018年にRelation Shift株式会社を設立。独自メソッド「問育®」を体系化し、IT・SIer企業のヒアリング力・提案力向上を専門に支援。東証上場企業を含む複数社へのエグゼクティブ・コーチングも担当。「正しい戦略があっても組織が動かない」という構造的な課題に、対話を通じて向き合い続けている。