「実験環境の再現性が低くて困っている」その一言、どこまで聞けていますか
先日のITエンジニア向けヒアリング力研修で、こんな一文を使ったワークをした。
「実験環境の再現性が低くて困っている」
参加者に、この一文をどう聞いたかを書き出してもらう。すると、ほぼ全員が同じ反応を見せた。
「実験環境」という言葉には、すぐに反応が返ってくる。「どんな構成の環境ですか?」「オンプレですか、クラウドですか?」
「再現性が低い」にも、すぐ食いついてくる。「何が原因で再現しないと思われますか?」「どれくらいの頻度で失敗しますか?」
ところが、最後の「困る」だけは、誰も深く聞こうとしていなかった。
なぜ「困る」だけが素通りされるのか
理由は、技術者同士の会話を考えるとよく分かる。
「実験環境」も「再現性が低い」も、いわば”技術の話”だ。技術者同士であれば、ここに深く踏み込むのは得意分野であり、むしろ楽しい領域ですらある。
一方「困る」は、いわば”気持ちの話”だ。技術者にとってはやや扱いにくい領域であり、なんとなく「分かった気になって」素通りしやすい。
研修のワークでも、参加者からこんな声が上がった。
「困るに対して、どんな風に困っているか聞くべきだと分かってはいたけど、実験環境や再現性の話に気を取られて、そこまで意識が向かなかった」
これはまさに、エンジニア脳の癖そのものである。技術的な要素にはすぐ反応できるのに、感情的な要素だけは無意識にスキップしてしまう。
「困る」を聞かないと何が起きるか

「実験環境の再現性が低くて困る」という一言だけを聞いて提案を組み立てると、多くの場合「環境を正しく整備する」という技術的な解決策に着地する。
しかし「困る」の中身は、実はいくつも考えられる。
- スケジュール的に間に合わないから困っている
- 精度が悪くて、欲しい結果が得られないから困っている
- 上司や顧客への説明責任が果たせないから困っている
これらは、それぞれ求められる解決策がまったく違う。スケジュールが問題なら、環境整備よりも優先順位の調整が先かもしれない。説明責任が問題なら、技術的な解決とは別に、報告の仕方自体を一緒に考える必要があるかもしれない。
「困る」を素通りしたまま提案すると、技術的には正しくても、顧客が本当に困っていることには届かない提案ができあがる。
対策:名詞・動詞の後に、必ず形容詞へ戻る
研修でお伝えしているのは、シンプルな習慣づけだ。
顧客の話の中に形容詞(困る、気になる、大変、不安、など)が出てきたら、名詞・動詞の深堀りを終えた後、必ずそこに戻ってくる。
「実験環境の再現性が低くて困っているとのことでしたが、具体的にはどんな風に困っていらっしゃいますか?スケジュール的にですか、それとも精度の面でしょうか?」
この一往復があるかないかで、提案の的中率は大きく変わる。
技術的な深堀りが得意なエンジニアほど、実は「困る」を置き去りにしやすい。だからこそ、意識的にこの一往復を習慣にする価値があるのだ。
技術者に「顧客視点を持とう」と言っても、
「伝わってないなぁ〜・・」と、頭を悩ませていませんか?
そうは言っても、難しそうなんだよなぁ。
この記事を書いた人
西勝 譲
代表取締役社長/CMO
1987年埼玉県生まれ。組織人事コンサルティング、個人向けコーチング事業を経て、2018年にRelation Shift株式会社を設立。独自メソッド「問育®」を体系化し、IT・SIer企業のヒアリング力・提案力向上を専門に支援。東証上場企業を含む複数社へのエグゼクティブ・コーチングも担当。「正しい戦略があっても組織が動かない」という構造的な課題に、対話を通じて向き合い続けている。


