「システムが重い」その一言、あなたは何と聞いてますか?──エンジニア脳と顧客脳の分かれ道
「システムの動作が重い」——この一言を、あなたのチームはどう聞いているだろうか。
同じ一言でも、「エンジニア脳」で聞くか「顧客脳」で聞くかによって、そのあとの会話も、提案の質も、まったく別物になる。今回は、実際の商談でよくあるこの一場面を使って、両者の違いを会話の流れで解説する。
エンジニア脳とは何か、顧客脳とは何か
エンジニア脳とは、顧客の言葉を自分(技術者)の言語にすぐ変換し、手段(どう実装するか)に向けて聞く思考回路のことだ。
顧客脳とは、顧客の言葉をそのまま受け取り、その言葉の奥にある目的(なぜそれが今問題なのか)に向けて聞く思考回路のことだ。
この2つは、以下のように整理できる。
| エンジニア脳 | 顧客脳 | |
|---|---|---|
| ヒアリングの質 | 自分の聞きたいことを聞く | 顧客が本当に話したいことを聞く |
| ヒアリングの方向性 | 手段方向へ聞く | 目的方向へ聞く |
| ヒアリングの目的 | 自分の目的を叶える | 顧客の目的を叶える |
抽象的に聞こえるかもしれないので、具体的な会話で見ていく。
ケース:「システムの動作が重い」と言われたら
ある顧客担当者から、こう相談された場面を想定する。
顧客「最近、システムの動作が重くて……サーバーが気になっているんですよね」
エンジニア脳のケース
エンジニア脳は、「重い」という言葉を聞いた瞬間、頭の中で技術的な原因の仮説を立て始める。「サーバーが気になる」という顧客の言葉をそのまま受け取り、サーバースペックの話に移ってしまう。
技術者「サーバーのスペックですね。現在どのくらいのアクセス数が来ているか、教えていただけますか?」
顧客「え、あ……そうですね、詳しい数字はちょっとわからないんですが……」
この時点で、顧客は「自分が本当に困っていること」を話せないまま、技術的な質問に答えられずに会話が止まってしまう。実はこの顧客が本当に言いたかったのは、「重いこと自体」ではなく、「重いせいで、月末の締め処理が間に合わず、経理部門から毎回クレームが来ている」ことかもしれない。しかしエンジニア脳では、そこにたどり着く前に会話が終わってしまう。
顧客脳のケース
顧客脳は、「重い」という言葉をすぐに技術的な原因に変換せず、まずオウム返しで受け止める。そのうえで、目的方向へ聞き進めていく。
①オウム返し
技術者「システムの動作が重くて、サーバーが気になっていらっしゃるんですね」
②確認質問(オープン)
顧客「そうなんです。もう少し早くならないかなと」
技術者「なるほど。ちょっと伺いたいんですが、どんな場面で『システムの動作が重い』と感じることが多いですか?」
顧客「月末の締めの処理のときが特にひどくて。処理が終わらなくて」
技術者「月末の締め処理ですか。それでサーバーが気になるということなんですね」
③対称質問①(背景を探る)
顧客「そうなんですよ〜」
技術者「ちなみに、月末の締めの処理が遅れると、どんな影響が出ているんですか?」
④対称質問②(優先順位を探る)
顧客「経理からのクレームが来るんですよ。締めが遅れると、翌月の報告にも響くので」
技術者「なるほど。となると、月末の締め処理をまず優先して改善したい、という理解で合っていますか?」
⑤エンジニア脳を活用した提案
顧客「そうです、そこが一番困っているところです」
技術者「それであれば、サーバー全体のスペック増強よりも、締め処理のバッチ設計を見直す方が、費用対効果が高い可能性があります。一度、処理の流れを詳しく見せていただけますか?」
ここで重要なのは、顧客脳は「技術を使わない」わけではないという点だ。むしろ最後は、技術者としての専門性(エンジニア脳)をフルに活用して提案している。違うのは、技術を使うタイミングだ。顧客の目的(月末締めが間に合わないこと)を、先に顧客の言葉で話してもらってから、技術を当てはめるか、言葉を聞いた瞬間に技術で反応するか。この順番の違いが、提案の的中率や顧客の納得感を大きく左右する。
なぜこの順番が重要なのか

エンジニア脳のケースでは、顧客は「サーバーが重い」という表面的な言葉でしか会話ができなかった。一方、顧客脳のケースでは、同じ顧客から「月末の締め処理が間に合わず、経理からクレームが来ている」という、提案の精度を大きく左右する具体的な情報が引き出せている。
顧客が最初に発する言葉は、たいてい表面的な症状(「重い」「使いにくい」「もっと早く」)にとどまる。その奥にある目的や困りごとまで踏み込んで聞けるかどうかが、刺さる提案とそうでない提案の分かれ目になる。
まとめ
| 1 | エンジニア脳は顧客の言葉をすぐ自分の言語(手段)に変換し、顧客脳は顧客の言葉をそのまま受け取り、目的に向けて聞く |
| 2 | 「システムが重い」という同じ一言でも、エンジニア脳は技術的な質問に飛び、顧客脳はオウム返し→確認質問→対称質問で目的を掘り下げる |
| 3 | 顧客脳は技術を使わないのではなく、技術を「使うタイミング」が違う。目的を掴んだ後にエンジニア脳を活用することで、提案の的中率が上がる |
Relation Shiftは、営業脳・技術者脳を顧客脳に変える設計で、IT/SIer企業のヒアリング力向上研修を行っています。問育®という独自メソッドをベースに、現場での行動変容まで伴走することを特徴としています。
この会話の型を、実際にロールプレイで体感していただけるのが、無料体験会です。
技術者に「顧客視点を持とう」と言っても、
「伝わってないなぁ〜・・」と、頭を悩ませていませんか?
そうは言っても、難しそうなんだよなぁ。
この記事を書いた人
西勝 譲
代表取締役社長/CMO
1987年埼玉県生まれ。組織人事コンサルティング、個人向けコーチング事業を経て、2018年にRelation Shift株式会社を設立。独自メソッド「問育®」を体系化し、IT・SIer企業のヒアリング力・提案力向上を専門に支援。東証上場企業を含む複数社へのエグゼクティブ・コーチングも担当。「正しい戦略があっても組織が動かない」という構造的な課題に、対話を通じて向き合い続けている。


