「聴いているつもり」が一番こわい――相手の文脈に入れない営業が壁にぶつかるまで
コーチングサービスの会社で働いていた25歳のころ、先輩にこう言われた。
とにかくメモを取れ。相手の言葉を全部書き留めろ。
素直に実践した。ファミレスで話を聞きながら、「ちょっとメモ取らせてください」と断って、ノートにびっしり書いていた。メモを取っている自分に、少し満足していたのだと思う。
メモを取りながら、聴いていなかった
ただ、今振り返るとよくわかる。
あの頃の私は、メモを取りながら頭の中で別のことを考えていた。
「このニーズなら、あのサービスにつなげられる。」「この課題感なら、次回こう提案しよう。」
相手がまだ話している最中に、もう「答え」を探していた。自分の中で結論が先に出来上がっていて、相手の言葉をその「答え」に当てはめようとしていた。
相手が言葉にしていること、その裏に何があるのか。本当は何を目的として話しているのか。その人にとってこの問題はどんな意味を持っているのか。そこには、まったく入れていなかった。
「また来てくれたけど、その先は来ない」が続いた
その頃は、体験講座というのがあり、知り合いやつながりのある方を招待していた。3,000円程度の、気軽に参加できる場だ。声をかければ来てくれる人は多かった。でも、その先につながらない。
よく返ってきた言葉がある。
ニシカツさんはいいんだけど、自分はそこまで深くは……
何度聞いても、腑に落ちなかった。自分なりに一生懸命やっていたし、コーチングの価値も信じていた。なぜ伝わらないのか。
今ならわかる。
私は相手の中に入っていなかった。「コーチングを受けるとどんな意味があるか」を相手がどう考えているか、聞けていなかった。
本来のニーズは何か。そのニーズにコーチングという手段が本当に合っているのか。そこまで立場に立てていなかった。
メモを取りながら、すでに「コーチングを学んでもらおう」という答えが自分の中にあった。だから相手の言葉の奥まで入れなかった。
「聴く」は知識ではなく、習慣の問題だ
「相手の立場に立って聴く」ことの大切さは、当時も知っていた。頭ではわかっていた。
でも、知っていることと、商談や対話の場でそれが自然にできることは、まったく別の話だ。
緊張した場面で、相手が予想外のことを言ったとき、自分の中の「答え」を手放して、もう一度相手の言葉に戻れるか。それは知識の量ではなく、どれだけその行動を繰り返してきたかによって決まる。
私が長い間できなかったのも、「聴く重要性」を知らなかったからではない。「自分の考えを止めて、相手の文脈に入る」という行動が、まだ自分のデフォルトになっていなかったからだ。
マネージャーに問いたいこと
チームのメンバーが「ヒアリングができていない」と感じているとき、それは知識の問題だろうか。
「傾聴が大事」「顧客ファーストで」。こうした言葉を知らないメンバーはほぼいない。それでも現場で再現されないとすれば、問題は別のところにある。
自分の考えを止められているか。相手の言葉の裏に入ろうとしているか。「答えを持たずに聴く」という行動が、習慣として身についているか。
「わかる」から「できる」へ。その回路をつなぐのは、一度の研修ではなく、現場での反復と、適切なフィードバックの積み重ねだ。
ファミレスでメモを取りながら、答えを探していたあの頃の自分が、今もときどき頭をよぎる。
この記事を書いた人
西勝 譲
代表取締役社長/CMO
1987年埼玉県生まれ。組織人事コンサルティング、個人向けコーチング事業を経て、2018年にRelation Shift株式会社を設立。独自メソッド「問育®」を体系化し、IT・SIer企業のヒアリング力・提案力向上を専門に支援。東証上場企業を含む複数社へのエグゼクティブ・コーチングも担当。「正しい戦略があっても組織が動かない」という構造的な課題に、対話を通じて向き合い続けている。


