何度研修を入れても提案型に変われないエンジニアが抱えている本当の問題

「研修を入れたのに、現場が変わらない。」

そう感じたとき、次に何を打てばいいのか。別の研修会社を探すのか、カリキュラムを変えるのか、それとも回数を増やすのか。

手を変え品を変え施策を打ち続けているのに、3ヶ月後も現場のエンジニアは同じように動いている。

このループに入り込んでいる組織は、実は多い。

問題は施策の量でも質でもない。「なぜ変わらないのか」の原因が、まだ特定できていないことにある。

原因が見えていなければ、どんな施策を打っても同じ場所をぐるぐると回り続ける。

では、何が変化を妨げているのか。多くの組織で見落とされているある問題が、ここに存在している。

技術者として真面目にやってきた、その積み重ねが「前提」になっている

まず、押さえておきたいことがある。

提案型に変われないエンジニアは、仕事をさぼっているわけではない。むしろ逆だ。技術を深め、要件を正確に理解し、品質の高いものを届けようとする姿勢は、長年の仕事の中で培われた誠実さの表れである。

そして、育成担当や事業部長の多くも、同じ道を歩んできたはずだ。技術畑で成果を出し、顧客の要件に応えることに誇りを持ってきた。その経験があるからこそ、今の役割がある。

問題は、その積み重ねが「思考の前提」として染みついていることだ。技術者として正しかった考え方が、時代と役割の変化によって、今は少しズレを生んでいる。これは責める話ではなく、環境が変わったという話である。

市場が変わった。しかし、思考の前提はまだ変わっていない

かつてのIT/SIer業界は、顧客が「こういうものを作ってほしい」と明確な要件を持って発注してくる構造だった。技術者はその要件を正確に理解し、高品質なものを届けることが価値だった。「御用聞き」と呼ばれようと、それが求められていた時代があった。

しかし今は違う。顧客自身が「何が必要か」を言語化できていないケースが増えている。DX推進と言われても、何から手をつければいいかわからない。そういう顧客に対して、要件定義の前段階から一緒に考えられるパートナーが求められている。

この変化は、エンジニアに「営業になれ」と言っているわけではない。顧客の課題を一緒に整理できる技術者になれ、ということだ。

ただ、この転換は簡単ではない。長年「要件に応える」という思考で動いてきたエンジニアにとって、「顧客が言語化できていないものを引き出す」という行為は、まったく異なる筋肉を使う話だからだ。

研修で「知識」は入る。では、なぜ動かないのか

研修後のアンケートは悪くない。「勉強になった」「顧客視点の大切さがわかった」という声も出る。では、なぜ現場の行動が変わらないのか。

理由はシンプルである。知識を得ることと、行動を変えることは別の話だからだ。

エンジニアは、研修の場では「顧客の立場に立つことが大切だ」と理解する。しかし翌週の顧客との会議では、いつも通り技術仕様の説明から入ってしまう。これは意識が低いのではない。日常の行動が、まだ長年染みついた「手段から考える思考」のままだからだ。

頭でわかっていても、体が動かない。この状態は意欲の問題ではなく、日常の中で思考の前提が更新されていないことが原因である。

「手段から考える思考」が出ている日常のシーン

この思考は、顧客との会議だけで出るわけではない。日常のあらゆる場面に染み出している。

社内会議の場合

上司から「この案件、どう進める?」と聞かれたとき、多くのエンジニアは「技術的にはこういうアプローチが取れます」と答える。上司が本当に聞きたいのは「リスクをどう見ているか」「顧客との関係はどこまで整理されているか」であることが多い。しかし、手段から入る思考では、そこに気づきにくい。

同僚との会話の場合

「この仕様、こうした方がよくないですか?」という提案をするとき、技術的な正確さを重視して話す。しかし相手が聞きたいのは「それによって何が解決するのか」という目的の話であることが多い。技術的に正しい提案が、相手に伝わらないのはここに原因がある。

顧客との会議の場合

初回面談で自社の技術力や実績の説明に時間を使い、顧客が「何に困っているか」を聞く前に提案の方向性が決まっている。顧客は本音を話さないまま会議が終わる。何度訪問しても関係が深まらないのは、このループが繰り返されているからだ。

これらはすべて、悪意のある行動ではない。技術者として正しく動こうとした結果、起きていることだ。だからこそ、本人も周囲も「なぜ変わらないのか」がわからないまま時間が過ぎる。

「現在地」が見えていないことが、最大の問題である

育成担当や事業部長が研修を選ぶとき、多くの場合「提案力を上げたい」という目的は明確だ。

しかし、自社のエンジニアが今どの状態にあるかを正確に把握できているケースは少ない。

現在地が見えなければ、次に何をすべきかも見えない。

「提案が刺さらない」という結果は同じでも、その原因は組織によって異なる。長年の受託体質のまま動いているのか、変わろうとして古い営業スタイルに固執してしまっているのか。この違いによって、必要なアプローチはまったく変わってくる。

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管理職が最初にすべきこと

現在地が明確になったあと、管理職や育成担当が最初にすべきことは何か。

それは、エンジニアが日常の中で「技術的な視点から考えている瞬間」に気づける環境をつくることである。

研修で学んだことを日常に落とし込むためには、日々の会議や会話の中で「今、自分は相手の目的より先に手段を考えていないか」と立ち止まる機会が必要だ。この自覚がなければ、どれだけ研修を重ねても行動は変わらない。

ここで管理職の役割が重要になる。「顧客視点を持て」と言い続けるのではなく、日常の1on1や案件レビューの場で「顧客の課題を中心に据えると、どんな話ができるかな?」と、自分自身にも、部下にも問いかける。その積み重ねが、エンジニアの思考の前提を少しずつ更新していく。

研修が「知識のインプット」で終わるのか「行動の変容」につながるのかの分岐点は、研修の内容ではなく、日常のマネジメントにある。

組織としてヒアリング力を上げる設計について、より詳しく知りたい方はこちら。

【IT/SIer】営業のヒアリング力を組織で上げるには?育成担当者が知るべき本質

まとめ

何度研修を入れても変わらないエンジニアの問題は、研修の質でも、エンジニアの意欲でもない。時代と役割の変化に対して、思考の前提がまだ更新されていないことにある。

技術者として真面目にやってきたからこそ、その思考は深く染みついている。責める話ではなく、環境が変わったという話だ。

だからこそ、最初の一歩は「うちのエンジニアはなぜ変わらないのか」を責めることではなく、自社のエンジニアが今どの状態にあるかを把握することである。現在地が見えれば、次に何をすべきかが見えてくる。

この記事を書いた人

吉川健一

吉川 健一

取締役/講師

IT業界の提案力・ヒアリング力向上を専門とする講師。技術者としての現場経験と、登壇100回以上の研修実績をもとに、「なぜ提案が刺さらないのか」を構造から解説する。現場で再現できる対話設計をテーマに執筆中。

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