営業マンがしんどいわけ —— 否定され、正解がなく、成長を感じられない日々の先にあるもの

営業職という仕事は、成果さえ出せば評価される。そう思われがちである。

しかし現実は、そう単純ではない。

  • 結果が出なければ、否定される

  • 正解がわからないまま、あれこれ試す

  • 手応えを感じる前に、数字だけを見られる

「なんでこんなに頑張っているのに、苦しいのか?」

現場からは、そんな声が聞こえてくる。

この「苦しさ」には、明確な構造がある。本稿では、営業マンが感じる“しんどさ”の正体を掘り下げ、それをどう乗り越え、どのような関係性や育成設計が求められるのかを紐解いていく。

第1の理由:「誰も肯定してくれない」

大前提、営業とは「断られる仕事」である。成果が出ないうちは誰にも褒められず、むしろ指摘や否定ばかりが集まる職種である。

ある20代の営業マンの声を紹介したい。

「1日60件テレアポしても、1件も話せない日もある。上司からは“数も質も足りない”って言われて、自分の努力がゼロ扱いされる感覚になります。」

お客様から断られるだけでなく、社内でも「そのやり方ではダメだ」と否定される。

一生懸命やっているのに、それを認めてくれる人がいない。そのような空気の中で、“自分を肯定する材料”が減っていく。

さらに、営業には明確なプロセス評価の文化がない企業も多い。「とにかく数字」「結果がすべて」と言われることが常態化しており、日々の行動や学習、仮説検証の繰り返しが可視化されず、ただ消耗していくような感覚に陥ってしまう。

仮に仮説検証が可視化されたとしても、その内容が「結果が出なかった理由」としてのみ扱われ、フィードバックではなく“追及(◯◯だから成果が出ないんだ)”の文脈で返ってくる場面もある。

そのたびに、本人の意欲は削がれ、「考えたことを表に出すほど損をする」という学習が積み重なってしまうのである。

第2の理由:「正解がない」

「こうすれば売れる」という明確な方程式があればよい。しかし、実際の営業現場には“再現性のある正解”は存在しない。

お客様の業界・業務・立場・タイミング・性格、それらすべてが異なる中で、同じアプローチが通用することは稀である。

たとえば、同じ提案資料を使っても、ある時は「いいね」と言われ、別の日には「うちは興味ない」と言われる。そのたびに「自分のやり方が間違っているのではないか」と悩むことになり「どうすればいいんだよ」と自暴自棄にもなる。

さらに、上司からのアドバイスも一貫性がなく、「もっと詰めろ」と言われたかと思えば、「押しすぎだ」と指摘されることもある。

この“答えのない迷路”の中で、営業マンは徐々に動けなくなっていく。

失敗したとき、「このやり方を学びに変えよう」と切り替える余裕すらなくなり、「怒られないこと」が最優先の行動基準となってしまうのだ。

第3の理由:「成長実感がない」

営業は、日々数字を追いながら、その合間に仮説検証やお客様との対話を重ねる仕事である。

しかし、その“日々の積み重ね”が、自分の中に何かを残している感覚がない。これが最大の苦しさである。

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たとえば、

  • 昨日訪問した10社と、今日の10社。その違いを、自分なりにどう捉えているか?

  • お客様に言われた「今回は結構です」という一言。その背景には、どんな温度や事情があったと感じるか?

こうした問いを投げかけてくれる上司は、聞いたことがない。「で、結果は?」「取れたのか?」という確認で終わることがほとんどである。

感じたことを言葉にする機会がなければ、それを受け止めてくれる場もない。その結果、たとえ本人の中に学びがあっても自覚できず、“自分は成長している”という実感にはつながらない。

これは、個人の問題ではなく、組織やチームの中に「学びを定義する文化」が存在していないためである。

成果が出るか出ないかの二択でしか評価されない環境では、プロセスや学びに焦点が当たることはない。

仮説を立てて動いた経験すら、「だから売れなかったよね」と結果論で切られてしまう。そうなると、“考えること”や“工夫すること”自体がリスクになり、徐々に「言われたことだけをやる人材」へと変わっていってしまうのだ。

そして、たどり着く「断られたくないマインド」

こうした3つの構造的な“しんどさ”にハマると、営業マンの中にある「前向きな挑戦意欲」は、だんだんと萎んでいく。

そして最終的には、次の2つのマインドに支配されるようになる。

  • 「断られたくない」

  • 「怒られたくない」

つまり、「評価されたい」のではなく、「否定されたくない」モードへと移行してしまうのだ。

そうなると、行動はどんどん小さくなる。

  • 断られるのが怖くて提案を控える

  • 怒られないように“安全なトーク”しか使わなくなる

その結果、本来の魅力や熱量が伝わらず、成果も出ず、自信を失っていく。

更に追記しておくのであれば、「前向きな挑戦意欲」があったにもかかわらず、上記のようなマインドに支配されてしまう営業マンを「向いていない」と切り捨ててきた風潮があるが、それでは育成を放棄しているのと同義だ。

では、どうすればよいか:マインドセットと関係性の再構築

この悪循環を断ち切るには、営業スキル以前に「マインドセットの土壌」と「関係性の空気」を整える必要がある。

たとえば、次のようなマインドがあるとどうだろうか。

「今回は断られたが、次につながる手応えがあった」
「断られた理由を、きちんと聞き出せたこと自体が前進である」
「上司が“よく聞いてきたな”と声をかけてくれた」

これは、“断られること”や“失敗”が、学びとして肯定される環境だからこそ生まれる反応である。

さらに、こうした土壌が整えば、営業同士で「この断られ方、わかる」といった共感や、「こう返したらうまくいった」という知見の共有も生まれてくる。

つまり、

  • 断られることが、前に進む材料となる

  • 怒られることが、信頼の入口となる

  • 失敗が、学びとして肯定される

そんな“営業文化”が醸成されていくのである。


Relation Shiftは、そのための変化を設計する

私たちは「営業スキルだけを教える研修屋」ではない。

  • 営業マンのマインドセットが整うこと

  • 上司との関係性がしなやかになること

  • チームとして“育ち合う仕組み”ができること

この3点を重視しながら、現場とともに育成の再設計を進めている。

現場が息苦しくなっているとき、それは営業個人の問題ではなく、組織全体の“育成の設計ミス”かもしれない。

Relation Shiftは、その“設計ミス”を問い直し、新しい空気をつくるお手伝いをしている。


おわりに:成果だけでなく、“続けられる力”を育てる

短期的な売上ももちろん大切である。しかし、それだけを追いかけることで、大切な営業マンが辞めていくのは、あまりにももったいない。

営業という仕事を「自分らしく、しなやかに続けられる力」。それこそが、組織にとって最も大きな資産になると、私たちは考えている。実際にそのようなトレーニングを行うことで、成果を出している企業が多数存在する。

今、貴社の営業現場に必要なのは、「動くためのモチベーションを瞬間的に上げること」ではなく、「モチベーションが消えない土壌をつくること」ではないだろうか。そのスタートは、きっと、「断られても大丈夫」という小さなマインドセットの転換から始まる。

今、動き出す成果。未来に続く成長。

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