相互理解とは何か?コミュニケーションの仕組みから相互理解レベルを3段階で説明

この記事は「組織の相互理解が深まらない」と課題を持っている経営者や人事責任者に向けて書いている。「相互理解を深めよう」という言葉、仕事上でも聞いたことがあるし、あなたも発言したことがあるかもしれない。しかし、下記のように相互理解について深めたことはあるだろうか。

  • 何を持って「相互理解が進んだ」と判断しているのか
  • 「相互理解ができていること」と「相互理解ができていないこと」の明確な違いはなにか
  • なぜ「Aさんとは相互理解ができている」と判断していて、「Bさんとは相互理解ができていない」と判断しているのか

このような問いに、客観的に答えられないだろう。安心していただきたいのだが、これについて答えられた方をみたことがない。誰もが感覚的に判断しているのが現状だ。

では、なぜ感覚的に「相互理解」について判断をしてしまうのか。これを、コミュニケーションの仕組みから整理し、相互理解について主観的な要素を1ミリでもなくしていくことが、本記事のねらいだ。

「100%の相互理解は不可能である」ところから始める

相互理解を進めようとする前に、そもそも「100%の相互理解は不可能である」ところから始めないと、相互理解は絶対に深まらない。100%の相互理解が不可能なのは「人間はひとりひとり考えが違うから」という実にシンプルな理由である。下記のコミュニケーションの仕組みを見ていただきたい。

情報をインプット(聞く)してアウトプット(話す)のが、コミュニケーションだが、その間に「Think(考える)」が挟まる。この「Think(考える)」が同じ人は1人もいないため、100%の相互理解は絶対に不可能だ。

親子の日常会話に例えると、このように展開される。

  • 母Think(宿題やったのかな、あの子、よく忘れるだから心配だわ。)
  • 母アウトプット・娘インプット「宿題やったの!?大丈夫!?」
  • 娘Think(めんどくさいな〜なんでいつもタイミング悪いんだろう、うちの母はー。)
  • 娘アウトプット・母インプット「今やろうと思ってたの!でもお風呂入ってくる!」
  • 母Think(ほら!やっぱり忘れていたのね、ホントあの子は心配だわ)
  • 母アウトプット・娘インプット「お風呂なんて良いから、今やったらどうなの?!」
  • 娘Think(はーあ、めんどくさい。やりたくなくなった〜嫌だけどお母さん曲げないから従うしかないーはぁ〜早く家出たい)
  • 娘アウトプット・母インプット「わかったー」
  • 母Think(やっぱり私がみてないとなのよね!)

    これで、会話自体は成立している。しかし、相互理解(心配な母と自立したい娘の対立)は進んでいないわけだが、会話が成立していることが、相互理解も進んでいると考えている人が大変多い。

    これが相互理解における落とし穴である。

    コミュニケーションはズレるもの

    大前提、「コミュニケーションはズレるもの」ということを自覚することから、相互理解は始まる。

    逆に言えば、このことを知らなければ、相互理解は一向に深まらない。むしろ溝が深くなるばかりである。

    上記の母娘の会話が日常的に行われたら、相互理解が進むだろうか?あなたは、この母娘の未来はどうなると思うだろう?

    娘は家を出て、中々実家に帰らず、たとえ結婚・出産をしたとしても、実家を頼れずにいるかもしれない。

    母親は晩年、介護が必要になったときに、誰も自分を見てくれる人が居らず「こんなに私は娘のことを見てきたのに!なんて親不孝者!」などと介護士さんに、愚痴を言っているかもしれない。

    さて、もしかしたらあなたは、この話がプライベートのことだから、関係ないと思っているかもしれないが、母娘のやり取りを上司部下に変えてみたり、顧客と営業マンに変えて、考えてみてほしい。

    どちらか一方、もしくは双方が、「コミュニケーションはズレるもの」という自覚がない、もしくは自覚が弱い故にクレーム・パワハラなどは発生しているのだ。

    相互理解とは「ズレを修正しあう」こと

    以上をまとめると、相互理解とは「ズレを修正しあうこと」にある。これを行うためには、「コミュニケーションはズレるもの」だという自覚を持たなければ始まらない。この意味を分解すると、下記のようになる。

    • 自分の発言は、相手に100%理解されない
    • 相手の発言は、自分に100%理解されない
    • 自分の発言を、相手は100%理解できない
    • 相手の発言を、自分は100%理解できない

    いずれもシンプルな事実で「ただそれだけの話」なのだが、この表現にどこか、心がモヤッとするかもしれない。

    人間は「自分の考えが絶対に正しい」と思い込んでいる特徴を持っているので、どこか「自分は100%聞けている」「自分の発言が100%理解されないなんてありえない」「相手は100%自分の発言を聞くべきだ」というような期待や過信が拭えないのだ。

    だから相互理解はとても難しく、「相互理解を深めよう」と言って施策を行っても、上記のような定義がなく、曖昧なまま進むため、偶発的な成果しか生まれず、ぶつ切れで終わってしまうのが実情である。

    ちなみに、相互理解の話は、単なる対人コミュニケーションに限らず、トップと従業員の意識のズレや、顧客と営業の意識のズレといった、あらゆるズレに応用が可能だ。意識改革は、この意識のズレを修正することで成功に導くことができる。

    相互理解を深めるための3つのレベル

    少し話が脱線してしまったが、今回は対人コミュニケーションにおける相互理解について話を進めていく。

    相互理解を深めるために、3つのレベルがある。そもそも「相互」という単語が示す通り、相手が存在しているわけなのだが、その相手に対して、どのようなコミュニケーションを行っているかによって、相互理解のレベルを測ることができる。順を追って紹介していく。

    レベル1:非難中心(相手を見ない)

    このレベルは、相手をよく見ずに条件反射的に自分の考えや感情をぶつけようとする。自分が変わることを拒否し、相手が変わることを優先的に望んでいる状態のことを言う。

    コミュニケーション例

    • 「◯◯はできているかもしれないけど、もっと◯◯をすべきじゃない?」
    • 「◯◯さんの、好きにやって良いんですよ(責任は取らないけど)」
    • 「せっかく研修を受けたんだから、君たちから変わってもらわないとね」

    このレベルの特徴は、「相手を見ずに自分の期待を押し付ける」 ことであり、結果として関係性は悪化する。

    なおこの時点では、「コミュニケーションはズレるもの」という自覚はほぼ皆無(0〜19%)である。

    レベル2:称賛中心(相手を見ようとする)

    このレベルは、自分の考えや感情ではなく、「相手の褒めるポイント」に集中するため、相手の良いところを見つけようとする。

    管理職研修で「部下を褒めることを実践する」というのを宿題として行わせてもらうことが多い。そして、次の研修で宿題の振り返りをすると、受講生が一同に言うのが「ちゃんと見てないと褒められないですね」ということだ。

    この「ちゃんと見る」というのが、レベル1とレベル2の大きな差だ。レベル1のときは、相手が存在しておらず、部下の言葉も非難すること(本人はアドバイスのつもりだが)しか頭の中になく、自分の考えしか聞いていないのが現状だ。しかしレベル2になると、ちゃんと見ないと褒められない事がわかり、センスの良い人は「部下を見ていなかった」と反省することができる。

    コミュニケーション例

    • 「顧客へのアプローチがとてもいいね!更に売上をあげていこう!」
    • 「よく、そのポイントを見つけたね!期待しているよ。」
    • 「今回得た事を、今後に活かしていってください!」

    このレベルの特徴は「相手を見て、自分なりに褒めて、自分の期待どおりに動いてもらおうとする」ことであり、レベル1よりは関係性は良好になる。

    なお、この時点では、「コミュニケーションはズレるもの」という自覚は弱い(20〜49%)。

    レベル3:事実中心(相手に確認する)

    このレベルでは、事実を中心に対話をすることで、相互のズレを調整する姿勢が生まれている状態である。そのため、相手の意図を確認をする質問が自然と多くなる。

    コミュニケーション例

    • 「この前の打ち合わせで◯◯って言っていたけど、あれはどういう意図だったの?」
    • 「そのポイント、目の付け所が面白いね!どうして気になったの?」
    • 「今、目標数字に対して-◯万になっているね。一緒に協力して考えたいんだけど、今これについてどう感じているの?」

    このレベルの特徴は、「コミュニケーションはズレるもの」という自覚があるため(50%以上)、自身の意図をある程度は言語化できている上で、相手の意図を聞くところにある。

    だから、あくまで「事実」が起点となり、解釈はそれぞれ異なるが故、調整する材料として捉えている。

    なお、相互理解はレベル3からスタートする。それまでは、相互理解とは言えない状態だ。

    以上を表でまとめたのが、下記の図になる。

    レベル 特徴 「コミュニケーションはズレるもの」という自覚
    レベル1(非難中心) 相手を見ず、自分の期待を押し付ける 0〜19%(ほぼ自覚なし)
    レベル2(称賛中心) 相手を見ようとし、自分の期待を通すために褒める 20〜49%(自覚が弱い)
    レベル3(事実中心) 事実をもとに、相手に確認する 50%以上(自覚が強まり、相互理解が始まる)

    まとめ:相互理解は「コミュニケーションはズレる」前提から

    いかがだっただろうか。今まで、「(自分の期待どおりに、組織や相手を動かすための)相互理解」について考えていたと思って頂けたのならば、それは、相互理解に向けた一歩を進められたし、あなた自身がレベル3に立つ準備ができている証拠であるとも言える。

    相互理解とは「ズレを修正しあうこと」という実にシンプルな事なのだが、それが故に人間の機能上、複雑に考えてしまう。特にレベル1の状態になってしまったら「コミュニケーションはズレるものだ」「まずは相手を褒めよう」と自分自身に言い聞かせて、相互理解の北極星にまた戻ってきてほしい。

    あなたが、記事を読む前よりも、相互理解について主観的な要素を1ミリでもなくせたのならば、本記事の目標は達成である。