本当に成功するビジネスマインドセットとは何か?成功企業が実践する共通認識の作り方
近年、「マインドセット」という言葉が注目されている。もともとは心理学の分野で使われていたこの概念が、ビジネスの領域でも語られるようになったのは、個人の時代と言われて久しい中、企業経営において「組織全体の方向性を統一すること」が難しく、かつ重要視されるようになったためである。
企業の成長には「個人の能力向上」だけでなく、「組織としての共通認識の形成」が不可欠である。しかし、多くの企業では部門ごとに目指す方向が異なり、時には対立が生じ、経営戦略が現場に浸透しないといった課題が発生している。
本記事では、「マインドセットとは何か?」という基本的な定義から、なぜビジネスにおいてマインドセットが重要なのかを具体的に解説し、企業の成功事例を通じて、組織の共通認識をどのように作っていくべきかを考察する。
目次
マインドセットとは?ビジネスにおける本質的な意味
一般的な「マインドセット」とは
マインドセットとは、個人の思考の枠組みや固定観念、価値観を指す。これまでの経験や環境によって形成され、無意識のうちに意思決定や行動に影響を与える。ビジネスの場面でも、個人のマインドセットが、業務の進め方や意思決定に影響を及ぼし、組織全体の生産性や成長に関わる。
例えば、
- 成長型マインドセット:「学べば成長できる」という考え方を持ち、新しい挑戦を恐れない。
- 固定型マインドセット:「自分の能力は決まっている」という考え方を持ち、新しいことに挑戦することを避ける。
このように、個人のマインドセットの違いが、組織の成長や停滞を左右する。
Relation Shiftの「マインドセット」の定義
一般的に「マインドセットを変える」と聞くと、個人の思考や価値観を変えることにフォーカスしがちである。しかし、弊社では、マインドセットを「個人や役職・立場による異なる前提を、共通の目的に沿って揃えること」と定義している。
たとえば、医療現場を例に考えてみよう。とある方が、脳梗塞で倒れ、リハビリを余儀なくされたとする。そして、退院をしていくにあたり、家族の元へ戻ることや、別の福祉施設へ向かう可能性を考える必要がある。
その退院調整会議に、「看護師」「作業療法士」「言語聴覚士」「理学療法士」「介護福祉士」などの役割の方が参加する。その際に・・
- それぞれの専門知識や経験から主張し合い「自分が理想とする、患者退院への道を押し通す」ことをしても、本当に患者のためになっているか分からず、せっかくの専門性が活かしあえない。
- 「患者・患者家族のために最適なケアを提供する」という共通の目的の元に動くことで、患者を主軸とした協力が可能となり、患者を中心とした情報共有ができ、各職種の専門性を活かすことができる。
このように、個々の立場や役割による前提が異なっても、「共通の目的」に沿って認識を統一することが、組織としての成果につながる。
「マインドセットを変える」=共通の目的を整え、組織の方向性を統一すること
企業経営においても、部門や役職の違いによる認識のズレは避けられない。しかし、それぞれの視点を尊重しつつも、「何を目指すのか?」を共通のゴールとして設定することが、組織を成功に導く鍵となる。
例えば、以下のような状況を考えてみよう。
- 営業部門:「とにかく売上を伸ばしたい」
- 開発部門:「品質を最優先したい」
- 経営層:「長期的に利益を最大化したい」
このような異なる視点のままでは、組織全体が一つの方向に進むことはできない。しかし「お客様の満足度を最大化しながら持続可能な成長を目指す」という共通の目的を設定すれば、各部門が同じ方向を向いて協力しやすくなる。
つまり、「マインドセットを変える」とは、個人の価値観を無理に変えることではなく、「共通の目的」に基づいて組織全体の認識を整えることである。しかし、「共通の目的」を整えることは一筋縄ではいかない。それは、なぜかを次に語っていく。
マインドセットの変革がうまくいかない理由
貴社の状況は、以下が、本当に当てはまるを考えてほしい。各部門は心から、下記のようなことを思っているだろうか。
・営業部門:「とにかく売上を伸ばしたい」
・開発部門:「品質を最優先したい」
・経営層:「長期的に利益を最大化したい」
そもそも、この前提であれば、個人的な価値観(難しい、分からない、しょうがない等)よりも、部門としての役割に基づいた思考を優先できているため、マインドセットは、とてもやりやすい。しかし、現実はそうはいかない。
マインドセットの変革がうまく行かない理由は、上記のようなキレイな前提から始めようとするからだ。現実的には以下のような状況ではないか。
- 営業部門:「とにかく売上を伸ばしたい(と上司には言っているが、実際は目の前の顧客で精一杯なので、しょうがない)が、訪問数が足りない」
- 開発部門:「品質を最優先したい(けど営業から、早く製品を出せと言われるし、経営陣も売上売上って言うから、品質担保できない、でもそんな事、言っても取り合ってくれない)けど、難しい」
- 経営層:「長期的に利益を最大化したい(のに、どうして営業は訪問数を増やせないんだか、よくわからない)が試行錯誤中」
弊社が関わってきた、すべての企業が多かれ少なかれ上記のような状態である(弊社も含めて)。
少し話がそれるが、とある40代の芸能人であり、美容家がこのようなことを言っていた。
自分自身が、老けたということを自覚したところから、美容への探求が始まった
きちんと現実を見据えて、現状認識をするところから、マインドセットはスタートするのだ。
前提を書き換えるためには「組織視点」をもたせること
上記のように、「目の前のことを優先するマインドセット」が、多くの企業の現状だ。そうすると、視野狭窄に陥り「だってしょうがないじゃん」「こっちはこれだけ頑張っている」というようなことを、言い合うコミュニケーションが発生する。
この発言から見えることは、そもそも会社組織における、自身の役割・期待を、自分勝手に設定しているということだ。
病院で看護師が「だって、私不器用で、注射できないんだもん、しょうがないですよね。◯◯さんお願いします」などと言っていたら、どうだろうか。医療では、そもそも役割が法律でも役割が明文化されているため、勝手に自身の役割を変える(看護師=注射できなくても良い)ような事が起きづらいが、会社では、頻繁に起こっていることだ。
このマインドセットを変革するために、まず、個人1人1人に行うアプローチは、弊社は行っていない。なぜならば、個人の影響力よりも、組織の影響力の方が強いと考えるからだ。
組織の方向性が変わっていることを、自身の仕事と繋げて把握ができていない(もしくは、したくない)から、マインドセットは目の前のことを優先してしまっている。経営側は、もっと上段から、かつ現場の仕事と繋げた形で、マインドセットのストーリーを作成していかなければならない。
それが、「組織視点を持たせる」ということである。
成功するマインドセットのために調整すべきポイント
では、成功するマインドセットとは何か。ここでは、マインドセットの全体像について語っていきたいのだが、それを語る前に、失敗するマインドセットの共通点を紹介したい。なぜならば、失敗するマインドセットを払拭しない限り、成功するマインドセットの全体像を語っても、浸透しないからだ。
1つだけ言えることは、成功するマインドセットには、必ずストーリーがある。そして、このストーリーは「誰も敗者にしないこと」が最も重要だ。
失敗するマインドセットは「敗者・悪者が存在する」
上記の図をみていただきたい。状況Aから状況Bへ、市場が変化することで、顧客〜従業員個人までが変化する必要性が生まれ、マインドセットが変わっていくという図だ。
この流れにおいて、やりがちなマインドセットは「もう状況Aでいることは悪だ。状況Bでいることが良い」というストーリーを、暗に伝えることだ。たとえ、このような表現を用いなくても、人間は現状維持バイアスがかかり、変化することを嫌う。にも関わらず、今(状況A)の働き方を「✗」としてしまうから、古株社員を中心に、更に軋轢が生じてしまうのだ。
そうではなく、「状況Aを経なければ、そもそも状況Bに会社が出会えていない。状況Aだったときに、支えた社員がいたからこそ、我々は状況Bに向かうことができている。」というストーリーに変えて伝えなければ、反感が多く、次に向かうことができない。
どうしても、状況Aを長く経験している古株の方は、マインドセットの切り替えが若手と比べると遅くなる。ただ、これは子どもや若者よりも大人の方が価値観が固くなるのと同じ話で、人間の性質的なところだ。
それであるならば、状況Aを長く経験していた古株社員の方を「切り捨てる」方向ではなく、「協力していく」方向を模索していくのが現実的だと我々は考えている。
- 調整ポイント:状況Aのときに必要だった能力・スキルと、状況Bのときに必要となる能力・スキルを棚卸しする
失敗するマインドセットは「お互いを尊重しあえない」
「もう状況Aでいることは悪だ。状況Bでいることが良い」というストーリーを伝えていると、当然、◯と✗が存在する。そうすると、状況Bで活躍している社員が、状況Aのまま、仕事をしている社員をバカにするという現象が発生する。
こうなると、「すぐに変化しやすい状況B社員」からは見えなくとも、「状況Aの仕事をしてしまいがちだが、亀の歩みで状況Bに進んでいる状況A社員」も切り捨てられるような環境が作り出されてしまう。
昨今の「管理職になりたくない問題」もこの事が言えるのだが、いわゆる「階層型キャリア(立身出世が当たり前の時代)」世代が、管理職になって働いてきてくれたからこそ、「選択型キャリア(働き方の多様性が生まれている時代)」世代が誕生していることを、お互いに理解がないまま「なんで、あっちはあんなことを言うのか分からない」という平行線の状態が続くのだ。
これでは、自分の行ってきた仕事・キャリアに自信が持てないし、感謝も当然生まれない。結果的にお互いを尊重しあえないまま、Win-WinではなくLose-Loseの関係となる。
- 調整ポイント:状況B社員は、なぜ自分が今、状況B社員として居られるのかを、状況A社員の好影響を前提に考えてもらう
失敗するマインドセットは「役割が曖昧」
昨今の働き方改革の影響で、「ジョブディスクリプションが日本にはない」という論調があったが、この根底には「役割の曖昧化が常態化している」ことが言える。先程の看護師の例がそれにあたる。
我々は、ジョブディスクリプションを明文化するだけで、役割が曖昧な常態化が解消されるとは思わない。なぜならば「管理職ならば」「営業ならば」といった、役割における問いを自分自身に持っておらず「給料を上げてもらうために」「プライベートを充実させるために」といった、個人的な目的を、常に持っているからだ。
ちなみに、「給料を上げてもらう」にも「プライベートを充実させるため」にも、役割における問いを持つことが近道なのだが、このことに気づいていないのが、骨の折れるところでもある。
- 調整ポイント:役割上、行うべき仕事と行ってはならない仕事を棚卸しする
失敗するマインドセットは「変化の前後を作れない」
状況A→状況Bに向かう変化のきっかけは必ず存在する。「トップの交代」「大型継続案件の失注」など、分岐点が存在し、それは全社員に影響しているのだが、さほど語られていない。
この話をするにあたり、自然災害は分かりやすい例なので紹介する。地震や豪雨によって、法制度が変わり、救助体制の見直しが行われる。もし、地震や豪雨がなければ、抜本的な見直しは起こしづらい。
更に、地震や豪雨のことを、けなしたり、馬鹿にしたりはしないだろう。それは、自然災害であるがゆえに、受け入れて、人間が生活するために対応するものだと多くの人は思っているからだ。
だが「トップの交代」や「大型継続案件の失注」は、その内容について、賛否を含め語られてしまう。
過ぎたことを受け入れて、変化へ対応するきっかけとして、分岐点を捉えられるようなストーリーの設計がないと、マインドセットの切り替えが起こせない。
- 調整ポイント:「変化へ対応するきっかけ」としての分岐点を発見する
失敗するマインドセットは「“問いを変える問い”を立てられない」
上記4つの話を、一方的にInput型で伝えたとする。これだけでも、マインドセットは進むが、この内容を受け取れるのは、1人か2人だろう。受け取る側が「だってしょうがない」「できない」という考えが溢れた状態で聞いていれば、入る内容も入らないからだ。では、どうすればよいのか?
そのためには、相手が問うてる問いを、問いで変えなければならない。
まるで禅問答のような話なのだが、夫婦2組で創業し、意識改革に一点集中して、「問い」の開発に取り組んできた弊社でしか、これはできないと自負している。
先程の図である「状況A」→「状況B」について、経営者レイヤーで自覚すべき問いと、管理職レイヤー・従業員レイヤーで自覚すべき問いは、それぞれ違うわけだが、どうしても経営者は、経営者のイメージで語ってしまうので、管理職や従業員にとっては、容量オーバーになってしまう。結果的に、「自分が、変化するきっかけとなった問い」を投げかける事しかできずに、マインドセットが失敗してしまうのだ。
しかし、容量の調整は自分ひとりでは、とても難しい。ぜひ我々とディスカッションしながら、貴社オリジナルの、マインドセットにおける問いを開発させてほしい。
成功事例:Z社の「マインドセット&アクショントレーニング」
上記の失敗するマインドセットを発見し、調整しながら、Z社は見事にマインドセットを成功させ、1つの成果を受け取ることができた。まだ道半ばではあるが、成功事例として紹介する。
物流支援システム企業Z社の課題
Z社は、物流支援システムを提供する東証スタンダード市場上場企業である。祖業であるアウトソーシング運営が主力事業であったが、業界の変化とともに、事業拡大や新規案件の受託が求められる状況になっていた。しかし、社内には以下のような課題があった。
-
指示待ち文化の蔓延
-
従業員の多くが「指示通り・間違いなく動くこと」を重視し、新しい取り組みに消極的であった。
-
現場の主体性が低く、変革の必要性が認識されていなかった。
-
-
マネジメントの停滞
-
管理職が現場業務に追われ、組織の方向性を示す役割を果たせていなかった。
-
部門間での目線や目標数字の共有が不十分で、組織全体のシナジーが生まれにくかった。
-
-
業務改善の遅延
-
課題の本質が組織に浸透しておらず、現場からのフィードバックが経営層に届きにくかった。
-
アンケートでは、無記名の場合にのみ辛辣な意見が出る一方、記名式では本音が隠れる傾向があった。
-
このような状況を打破するために、Z社は「意識改革を基盤とした業務改善支援コンサルティング」を導入した。
解決策:意識改革+業務改善支援コンサルティング
弊社は、Z社の意識改革と業務改善を同時に進めるために、コーチング+研修+実践プログラムという三本柱の施策を実施した。
1. コーチング:本部長の意識改革
まず、組織変革の推進者となるべき本部長に対し、個別コーチングを実施した。これは、組織全体の土壌を整えるための第一歩であり、以下の要素を中心に進めた。
-
目標の明確化と共有
本部長が組織全体の課題を整理し、部門間で共有する「設計図」を作成。 -
役割と責任の再確認
本部長自身の意識改革を促し、リーダーとしての役割を強化。さらに、キーマンを特定し、育成する仕組みを設計。 -
継続的なフィードバックと改善
定期的なフィードバックセッションを通じて、意識改革の進捗を確認し、リーダーシップの波及をサポート。
2. 研修プログラム:マインドセット&アクショントレーニング
コーチングを土台として、組織全体に意識改革を広げるため、3つの研修を実施した。
-
基礎研修:共通認識の形成
-
部門間の認識のズレをなくし、組織全体で「共通の目的」を共有する。
-
具体的には「自分の業務が組織のミッションにどのように貢献するか」を考えるワークショップを実施。
-
-
応用研修:自律型人材の育成
-
各部門のリーダーを対象に、少人数のコンサルティングを実施。
-
計画力や実行力を鍛えるためのケーススタディを導入。
-
-
実践研修:成功事例の共有と展開
-
ある成功拠点での取り組みをモデルケースとし、その実践内容を全社で共有。
-
各拠点での改善点をディスカッションし、具体的な行動計画を策定。
-
成果:マインドセットの変革による組織の成長
この取り組みの結果、Z社では以下のような成果が得られた。
-
自律型人材の増加
-
一部のメンバーが「自分たちで考えて動く」姿勢を獲得。
-
主体的に業務を改善する文化が醸成され、効率化が進んだ。
-
-
新規受託の成功
-
創業以来初めて、新規業務の受託に成功。
-
変革の実感と期待が組織全体に広がり、他拠点への展開が可能となった。
-
-
組織全体の意識向上
-
アンケート結果やディスカッションを通じ、各メンバーが現状を認識。
-
それまで「指示待ち」だった社員が、自発的に行動する文化へと変化。
-
まとめ:組織の成長には「共通の目的」を持って進むことが不可欠
いかがだっただろうか。企業の持続的な成長には、単なる個人のスキル向上だけでなく、組織全体のマインドセットを共通の目的に向かって整えることが必要である。本記事を通じて、ビジネスにおけるマインドセットの重要性と、それを組織に浸透させるための具体的な方法を解説してきた。
上記の通り、組織に浸透させるためには一筋縄ではいかない。だが、状況Aから状況Bへ向かうストーリーが1本化され、各々の役割に浸透したときに、組織は今までにない大きな力を発揮し、成果を手に入れることができる。
Relation Shiftでは、企業ごとの課題に合わせた「マインドセット改革プログラム」を提供しているので、ぜひ、貴社の組織変革に向けて、次の一歩を踏み出してほしい。