日本とアメリカのエグゼクティブ・コーチングの違いは?
エグゼクティブ・コーチングは、日本とアメリカで大きな違いがある。それは文化・ビジネス環境・リーダーシップスタイルの違いが影響を与えているためだ。本記事では、以下の観点から、具体的な違いを比較していく。「目的」「アプローチ」「コーチの役割」「対象者」「企業文化」の5つから整理した。
目次
コーチングの目的の違い
そもそもビジネス文化としても、成果を求めるのはアメリカ式だ。従って、長期的な視野よりも短期的な成果を求めるためにプロ・コーチを招いており、プロ・コーチも短期的な成果を上げるためにコミットしている。比べて日本は、長期的な視野で、かつ成果よりも「自己内省」「気づき」にフォーカスしている印象がある。
アメリカ:成果・パフォーマンス向上が最優先
- 短期間で目に見える成果を求める
- 目標達成、売上向上、組織変革など、具体的な成果を重視
- 行動変容とスキル開発が中心
- リーダーシップ強化、意思決定の向上、影響力の強化
- エグゼクティブの“競争力”を高める
- ビジネスの成果を最大化するための個別指導として導入
日本:内省と長期的な成長を重視
- リーダーとしてのあり方(Being)を探求
- 自己認識の向上、価値観の明確化、リーダーの人間的成長が重視される
- 組織全体の調和を意識
- コーチングを通じてリーダーが組織の心理的安全性を確保
- 長期的な変化を求める
- 1〜2年スパンでじっくり成長するプロセス
違いのポイント
- アメリカ:短期間で行動変容し、成果を出すことが目的
- 日本:長期的にリーダーとしてのあり方を探求し、組織との調和を重視
コミュニケーションスタイルの違い
短期的な成果を重視する場合と、長期的な気づきを重視する場合では、コミュニケーションスタイルが変わってくる。具体的には下記のようになる。
アメリカ:率直で直接的なフィードバック
- コーチは経営者に対して遠慮なく指摘
- 「この意思決定は間違っている」「もっとこうすべきだ」と直接的なアドバイス
- ハイチャレンジ・ハイサポート
- 高い目標を設定しつつ、具体的な解決策を提示
- クライアントの自立を促す
- コーチはメンター的存在で、早期に自己解決できるよう促す
日本:傾聴を重視し、問いかけを中心に進める
- クライアントの気づきを促す
- 「あなたはどう考えますか?」「なぜその決断をしたのか?」という質問を通じて、自己認識を深める
- 心理的安全性を重視
- 経営者が安心して考えを整理できる場を提供
- 関係性の構築に時間をかける
- 信頼関係を築いた上で、徐々にフィードバックを行う
違いのポイント
- アメリカ:「ズバッと核心を突く」スタイル
- 日本:「対話を重ね、クライアントが気づくプロセスを大切にする」
コーチの役割の違い
背景が違うため、役割も同様に異なってくる。
アメリカ:戦略パートナー・メンター
- 成果を出すための伴走者
- クライアントが経営課題を乗り越えるために、具体的な戦略や解決策を提示
- 成果に対するプレッシャーが強い
- コーチの評価は、クライアントがどれだけ成果を上げたかで決まる
- トップ経営者との契約が多い
- CEO・CXOクラスがコーチングを受けることが一般的
日本:成長を支援するガイド
- リーダーの自己理解を深めるサポート
- 価値観やリーダーシップスタイルの再確認を促す
- 内面的な変化を重視
- 企業の価値観や文化を考慮しながら、リーダーとしての「あり方」を探求
- 中間管理職にもコーチングを提供
- 経営層だけでなく、部長・課長クラスのリーダー育成にも活用
参考資料(弊社事例):Z社の経営層コーチング事例|組織の成長を促すリーダーシップ変革
違いのポイント
- アメリカ:「成果を出すための戦略パートナー」
- 日本:「リーダーの成長を支援するガイド」
企業文化との関係
エグゼクティブコーチングに投資をしたことがない日本企業は、まだ多くいるだろう。実際に広がりつつもあるが、その性質の違いから「成果を高めるためにコーチングをする」という観点が弱いので、このようになっているのだと推察される。
アメリカ:エグゼクティブコーチングは“投資”
- 外部のプロコーチを活用するのが一般的
- 企業がCEOや幹部の成長のために、高額のコーチング契約を結ぶ
- 個人がコーチングを自己投資として受けることも多い
- MBA取得者などがリーダーシップ開発の一環で受ける
- スタートアップでもコーチングが導入される
- 急成長を遂げる企業では、リーダーシップ開発のためにコーチを雇うのが一般的
日本:エグゼクティブコーチングはまだ発展途上
- 社内でのコーチングが多い
- 日本企業では「上司が部下にコーチングする」1on1が主流
- 外部コーチの活用はまだ少ない
- エグゼクティブ層が個人でコーチングを受けることは、アメリカほど一般的ではない
- 企業文化としてのコーチングは広がりつつある
- 外資系企業やグローバル企業では、アメリカ型のコーチングが導入される傾向
違いのポイント
- アメリカ:「企業が経営層にコーチングを投資するのが一般的」
- 日本:「社内コーチングが中心で、エグゼクティブ向けはまだ発展途上」
まとめ:アメリカと日本のエグゼクティブ・コーチングの違い
最後に、簡単に表にまとめたので、参考にしていただけると嬉しい。
観点 | アメリカ | 日本 |
---|---|---|
目的 | 成果・行動変容 | 内省・リーダーの成長 |
アプローチ | 率直なフィードバック | 対話を通じた気づき |
コーチの役割 | 戦略パートナー・メンター | 成長を支援するガイド |
対象者 | CEO・CXOクラスが中心 | 経営層+中間管理職 |
企業文化 | 外部コーチの活用が一般的 | 社内コーチングが主流 |
今後の日本におけるエグゼクティブ・コーチングの展望
近年、日本でもエグゼクティブ・コーチングのニーズが高まっている。特に以下の点が今後の成長ポイントになると考えられる。
-
外部コーチの活用が増加
→ 外資系企業・成長企業では、アメリカ型のコーチングが導入される傾向にある -
経営層向けのコーチングが一般化
→ 「リーダーの成長=企業の成長」という認識が強まる -
アメリカ型と日本型の融合
→ 成果を求めつつ、内省を重視する「ハイブリッド型」が主流になる可能性がある
日本においても、エグゼクティブ・コーチングが経営戦略の一環として定着するかもしれない。なお、エグゼクティブ・コーチングとはなにかについては、下記の記事を参考にしていただけると嬉しい。