成功する営業組織の意識改革 │ 顧客視点で描く5,000万受注の実現
営業の意識改革は、現代の企業が競争力を維持し、さらなる成長を実現するために極めて重要なテーマである。時代の変化に伴い、営業の役割や手法も大きく進化してきた。かつては製品力や提案力だけで十分だったが、現在では顧客の潜在的な課題を発見し、深く信頼を得る能力が求められている。本記事では、過去の営業スタイルの変遷を振り返りつつ、貴社にフィットする解決策の必要性について詳しく解説する。また、T社の成功事例を通じて、意識改革が実際の成果につながるポイントを明らかにする。本稿を読んでいただいているあなたが、自社の営業組織をどのように変革し、成功へと導くべきかのヒントを提供する。
日本における営業職の役割の歴史
高度経済成長期 (~1973年) / 御用聞き営業
この時代、日本企業は経済成長の波に乗り、需要が供給を大きく上回る状況であった。営業マンは「御用聞き営業」として、顧客に嫌われないことを第一に考え、製品力に頼った営業スタイルが主流であった。
-
特徴: いい製品を作れば自然と売れる時代。
-
営業スタイル: 顧客の要望を聞き、製品を届ける。
-
情報格差: 営業 >> 顧客(営業のほうが圧倒的に情報を持っている時代)。
安定成長期 (~1991年) / 提案型営業
バブル経済の時期に差し掛かり、供給が需要に追いつき始めた。この時代、営業マンには自社製品の優位性を明確に伝える「提案型営業」が求められた。
-
特徴: 製品と競合の違いを説明することが重視される。
-
営業スタイル: プレゼンテーションを中心に据えた提案活動。
-
情報格差: 営業 > 顧客(営業のほうが多く情報を持っている時代)
経済停滞期 (~2012年) / 課題解決型営業
バブル崩壊後、需要が供給を下回る「売り手市場」が終焉を迎えた。この時期、顧客の課題を深掘りし、具体的なソリューションを提供する「課題解決型営業」が主流となった。
-
特徴: 顧客の課題解決に焦点を当てた提案。
-
営業スタイル: 顕在ニーズを聞くヒアリング能力と解決策提案が重要。
-
情報格差: 営業 = 顧客(インターネット等で情報が取れ、同等に情報量がある時代)
アベノミクス以降 (~現在) / 価値創造型営業
現在、顧客の潜在的課題を発見し、それを共に解決する「価値創造型営業」が注目されている。このスタイルは、営業マンが単なる売り手ではなく、顧客のパートナーとして信頼を得ることが求められる。
-
特徴:信頼構築を軸に、潜在的課題を引き出す。
-
営業スタイル:潜在ニーズを聞く、ヒアリング力・対話力を重視した関係性構築型営業。
-
情報格差: 営業 ≦ 顧客(AIなどを通して、事実情報から適切な解析までも顧客が見いだせる時代)
貴社は現在どのスタイルで営業を行っているか
先に結論を述べると、弊社は「営業の役割を再定義する」ことを通して意識改革を行っている。この意味で、大枠、どのフェーズにいる企業に対してもソリューションが当てはまり、継続すれば具体的な成功事例も多い。ただ、診断や希望する処方を誤ると下手に工数が増えてしまい、一部、不必要なコンテンツを提供してしまったケースもある。
こうしたことを防ぐため、自身で行う現状診断は大変重要だ。まずは自社の営業スタイルについて把握をする必要がある。一般的に、下記のような課題意識だと、前述の営業スタイルに当てはまりやすい。
殿様営業の営業課題
御用聞き営業の前に「殿様営業」である会社も存在しているので、こちらもご紹介したい。何度も伝えたいのだが、この営業スタイルが悪い・遅れていると言いたいわけではなく、時代の変遷・ビジネスモデルの構造上、殿様営業で成立していた背景があっただけだ。殿様営業は、下記の営業課題を持っていることが多い。
- ビジネスモデル・業界の構造上、何もせずとも、売上が上がっているため、営業マンが顧客先に行かない
- 期初に、営業部課としての目標設定をしていない
- 本来期初に行うべき目標を、期末評価面談のときに共有して、その評価を同時に行っている
- 管理職が目的の分からない数字の集計を課している
このような企業における成功事例を紹介しておくので、参考に見ていただけると嬉しい。なお、殿様営業の場合は、全体的な意識改革から行わないと、中々刷新しづらいと思われる。
御用聞き営業の営業課題
続いて、御用聞き営業のスタイルを行っている会社は、下記のような課題が出ていることが多い。
- 今の収益モデルだけだと、頭打ちになっている
- 事業領域を拡大し、アップセル・クロスセルなどをして、収益の柱を太くしなければ生き残れない
- 営業マンが客先に足を運んでいるが、言われた通りのことしか提案できない
- 提案するチャンスがあるものの、供給側が先に商品・サービスを準備していない
御用聞き営業をしている企業は、どの業界に限らず、2次受け・3次受けの企業に多い印象がある。今まではそれで収益が成り立ってきたが、業界の再編が起き、直請けの企業ですら余裕がなくなっている中で、モデルチェンジが求められている企業だといえる。
例えば、自動車ディーラーの業界は、こちらの「御用聞き営業」で今も問題なく収益が上がっている会社が多いため、車検が近くなれば、高い車検の見積もりと、買い替え用の車をいくつか紹介をするという、言われた通りの提案をしているのが、一般的な営業マンだ。
このようなディーラーばかりいる中「家族構成」「子どもたちの進路」「住宅事情」「仕事事情」などがそれとなくヒアリングできその上で「お客様ならば〜」と提案をしてくれる営業マンがいると、どうみても、一般的な自動車ディーラーの営業マンよりも目立つ。
御用聞き営業の課題意識でいた企業の成功例は下記をご覧いただきたい。
提案型・課題解決営業の営業課題
続いて、提案型や課題解決型営業のスタイルを行っている会社は、下記のような課題を持っていることが多い。
- 経営・IT・財務問わず、コンサルティングなどの顧客の課題に取り組む企業である
- 組織の拡大に伴い、属人的な面に頼っていたが、組織的に情報共有の精度を上げる必要がある
- 顧客が求めているニーズと的外れな内容、提案時により深く話してしまい
- 専門的な単語を多く使ってしまい、技術者寄りの提案になってしまう
提案型・課題解決型営業の企業は、「そもそも顧客から提案・課題解決を求められる」立場にいる。だからこそ、専門知識に基づいて課題解決をしようとするのだが、情報が溢れ、かつ情報整理まで出来る生成AIが登場している現代において、その方法は古い。「専門知識を、顧客の脈絡に基づいて、いかに活用していただくのか?」という思考の転換が必要になる。
提案型・課題解決型の課題意識でいた企業の成功例は下記をご覧いただきたい。
さて、貴社の営業スタイルはなんとなく把握できただろうか?続いては、この意識改革の成功事例と失敗事例を紹介していきたい。
営業の意識改革の成功事例・失敗事例
失敗事例: C社の営業マン意識改革の課題
概要
C社では、ビジネスモデル上、何もしなくても売上が上がっている状態が続いている企業であった。そのような中、コロナ禍を期にその状態が変わってきているものの、営業マンの意識が変わっておらず、顧客訪問に行くものの、現状の調整をしているだけで、具体的な営業をしていないような状態であった。
このような状態に対して「潜在ニーズを引き上げる」ヒアリング力を身につけることで、顧客先でのアップセル・クロスセルにつながると考えられ、弊社に営業トレーニングの依頼をいただいた。
実際に行ったトレーニングにより、営業マンの意識は前向きになったのだが、その後の効果測定ができなかった。理由としては、そもそもC社が目標設定を期初に行っておらず、期末に目標設定をし、期末にその目標達成率を評価するという本末転倒な状態であったことが判明した。
解説
失敗事例として出しているのだが、後に対策を変更し、C社は大きな成果をあげることになった。遠回りしてしまった理由としては、「現状の把握を、弊社もC社自身も行えていなかったこと」にある。
そもそも目標設定を行えていない文化があれば、当然数字意識も弱く、日常的に効果測定もできない状況にある。その意識の底上げをした後に、営業トレーニングを行えばよかったのだが、やるべき順番を誤った事例である。
成功事例: T社の提案窓口(技術者)の意識改革
概要
大手通信子会社T社では、営業の役割を技術者も行うように方針転換がされ、技術者の営業力取得が急務となっていた。また、現状の取引先とのシュリンクが想定される中、別会社や関連会社に対して、新規提案やアップセル・クロスセルの必要がある状況だった。
そこで、弊社のヒアリング力向上トレーニングに着目し、依頼をいただいた。トレーニングの3期目をしている頃に、「5,000万規模の受注に成功した」と、報告をいただいた。
解説
この成功の要因は、「現在地と方向性のマッチング」と「継続性」にあると考えている。現在地については語っているので、ここでは割愛するとして、「継続性」も大切な観点だ。
「営業(今回では技術者)の役割の再定義」をすると、その再定義に基づいて動く人が何人か現れ始める。そして、その人間についていく人、今までと変わらない人、拒否する人など反応は様々である。しかし、トレーニングを継続していけば、この流れは当然加速し、やがて成果が生まれる。
役割の定義は、決して高度な専門性を要するものではないため、一度納得ができると、その思考が自身にインストールされるので、一般的な研修と違い、あまり忘れずにその役割に沿って動くことができるのが利点だ。この利点を、最大限に活かしたケースだと評価している。
どのような営業の意識改革が必要なのか
では、成功事例や失敗事例を語ってきたが、続いて、具体的にどのような営業の意識改革が必要なのかを語っていく。前述の通り、弊社は「営業の役割を再定義する」ことを通して意識改革を行っている。
今までの役割とこれからの役割を再定義しているのだが、基本的に「営業中心」から「顧客中心」への役割転換をしている。それらを分解すると、下記のような表となる。
今までの営業(自社中心) | これからの営業(顧客中心) |
---|
自社の製品・サービスを売る | 顧客の課題を解決する |
自社の強みをアピールする | 顧客の業界動向や課題を理解する |
自社のKPI達成を優先する | 顧客の成果を優先する |
製品やサービスの仕様を伝える | 顧客の期待値を管理し、ニーズを引き出す |
過去の成功事例を紹介する | 顧客の状況や未来を見据えた提案をする |
営業が一方的に説明する | 顧客の話を深掘りし、対話する |
提案時に価格や納期を強調する | 提案時に顧客の得られる価値を強調する |
顧客の発言を営業の都合で解釈する | 顧客の発言をそのまま受け取り、深掘りする |
短期的な成果を重視する | 長期的な関係性を構築する |
主語が全く異なり、そこから先の行動・言動が変わってくるのだ。このような話を、あなた自身も部下や周囲に、しているかもしれない。しかし、中々、その意図が伝わっていないのが現状ではないか。
この「役割の再定義」を成功に近づけるために最も需要なポイントは、「共感と納得を生むストーリーであるかどうか」だ。例えば、住宅購入を考えているときは、住宅展示場に足を運んでみたり、ネットで色々と調べるはずだが、購入後はどうだろうか?自分ごとにならない限り、人は行動しないのだ。
その意味で、最も気をつけて意識改革を進めなければならない点は「現在地と方向性」をズレないようにすることにある。殿様営業スタイルの企業と、御用聞き営業スタイルの企業では、普段会話をしている言語が全く違う。これは、提案型も課題解決型も同様である。
全てにおいて解決策は「営業中心」の役割から「顧客中心」の役割への役割の再定義なわけだが、これをどのように、各フェーズの企業に共感と納得、変化へのやる気を含めて表現するかは、各社において、完全オーダーメイドで行い、各回の受講者の反応によって調整をしている。
成功する営業の意識改革の3ステップ
以上を踏まえて、成功する営業の意識改革のステップを3つに分けて整理を行った。
リーダーを決める or 発見する
-
第一候補は、この記事を読んでいただいているあなただ。根気よく、ここまで読んでいただいたのだから、その素質は十分にある。ただ、あなたが営業部長ならばよいが、もう少し役割として経営層にいると、共に改革に進むリーダーを指名しなければならない。
-
そのリーダーは、変革のロールモデルとして、自らが変化を体現し、組織全体を牽引する役割を担うべきである。
自社の営業課題と改革目的を決める
-
今回の記事を参考にしながら、現状の課題を洗い出し、どのような変化を目指すのかを明確化することだ。
- モデル人材と、課題人材、それぞれにインタビューをし、モデル人材も、課題人材にも持っている貴社共通の課題を探していく。
- その後、共通課題として何を変化することを目的とするのかを導き出す。こうすることで全体の底上げを行える。
具体的目標を定める
-
この目的が達成されたということは、具体的に売上がどのようになっているのか?顧客との関係はどのようになっているのか?新規・既存顧客への広がりはどうなっているのか?など、期間も含めて数値化した目標を定めていく。
簡単ではあるが、この3ステップを通すと、だんだん解像度が上がってくることが実感できるだろう。更に深めたい場合は、ぜひ我々もディスカッションに呼んでいただけると嬉しい。
まとめ
営業の意識改革とは、単なる行動の修正にとどまらない。それは、組織全体の方向性を支える「役割の再定義」から始まる。顧客の信頼を得るには、営業が自社の提供価値を顧客視点で再構築し、顧客のパートナーとして信頼される存在に変わることだ。本記事で解説した「時代と営業スタイルの変化」と「成功事例」を参考に、まずは現状の営業課題を自己診断し、次なる一歩を明確にしてもらうことをおすすめする。営業の役割を再定義することで、顧客との関係がより強固になり、持続可能な成長への道筋が見えてくるはずである。