変革を導く「経営者の意識改革」の方法
意識改革の主体は、間違いなく先導の役割を持つ経営者である。なぜならば、先導という言葉の通り、先に導く役割の方向性がズレてしまえば、行き先もズレてしまうのは当然のことだからである。だからこそ、責任は重いし、現状維持バイアスがかかることも理解できる。
そのような状況でもありながら、あなたがこのタイトルに導かれたということは、自身の意識改革を含めて、会社全体の意識改革・業績改革を模索していると、推察している。本稿では、組織の方向性について選択を悩んでいる経営者に向けて、変革に導く意識改革の方法をお伝えする。
会社にとって「改革」とはなにか
まず、変化と変革の違いについて語っていきたい。辞書にはこのように書かれている。
へん‐か〔‐クワ〕【変化】
1ある状態や性質などが他の状態や性質に変わること。「時代の 変化 についていけない」「変化 に富む生活」「気温が急激に変化 する」
2文法で、単語の語形が人称・数・格などに応じて変わること。「動詞の語尾が変化 する」 ーコトバンク
この大きな違いはなにか?弊社としては「定義・前提が変わること」だと捉えている。辞書を引用すると「生活」「気温」という前提は変わっておらず、それが上下しているのが、変化と言えるだろう。基準となる単語は、変わっていない。
一方、変革は、変えて新しいものにするのだから、定義自体が変わる。辞書と同じことを言い換えているだけだが、「認識」や「制度」とった、評価基準自体を変えて新たなものにすることが変革となる。
では、本稿のタイトルでもある「改革」とはなんだろうか?
かい‐かく【改革】
〘 名詞 〙
①不完全なところをあらためかえて、よりよいものにすること。
- [初出の実例]「乾之道於レ是改革する也」(出典:土井本周易抄(1477)一)
- [その他の文献]〔後漢書‐黄瓊伝〕
①変えてはならない基礎があり、それを達成するにあたり②不完全なところを改めて変えることだと弊社では、整理している。
では、この定義に基づいて、まず経営者自身がやらなければならない、意識改革の挑戦を進めていこう。
経営者の意識改革の方法
動かしてはならない会社の「基礎」を見直す
辞書で引いた改革の定義に、「国家の基礎を動かさず、暴力的でなく、政治上または社会上の変革をすること。」と記載があるが、国家の三要素として一般的に認識されているのは、領域(領土、領水、領空)、人民(国民、住民)、そして主権である。これらは国家が成立するための最も基本的な要素とされている。会社の基礎に応用が効くので、国家の三要素について、少し記載をしていく。
- 国民(People)
国民とは国家を構成する個々人、あるいはその全体を指す。また、その国の国籍を有する人のこと。共通の文化や価値観は、国家の安定に寄与する。 - 領土(Territory)
領土・領域とは国際的な取り決めで定められたものだ。領土は国が持つ陸地のことで、独占的におさめる権利を持つ。そして、領域は領土に加え、領空・領海の3つの要素から構成されている。 - 主権(Sovereignty)
主権は国際関係において最も重要な概念の1つである。なお、主権は「国家の属地性(他の国と対等である権利)」と「内政不干渉の原則(他の国に支配されたり、干渉されたりしない権利)」の2つの要素から構成される
会社における「動かしてはならない基礎」とは?
国家の基礎は、「領土・国民・主権」の上位概念として、「国家を国家たらしめる根本的な原則」と考えることができる。それを企業に当てはめると、企業の存続に関わる「根本的な原則」は何かを考える必要がある。
弊社は、企業における「動かしてはならない基礎」は、以下の3つに整理できると考えている。
1.存在意義(Purpose / Identity)
- 会社が何のために存在するのか?
- どのような価値を提供するのか?
- 企業は市場や組織体制が変化しても、その根本的な存在意義(アイデンティティ)は変えてはならない。
- これは、国家でいう「国家理念・憲法」に相当する。
(例)「トヨタの使命は、移動の自由を提供することである」「ユニクロは、より良い服をより多くの人に届けることである」
2.経営原則(Core Principles)
- 企業が存続・成長するための揺るがない価値観や行動規範。
- 企業ごとに異なるが、たとえば「顧客第一」「誠実さ」「持続可能性」など。
- 経営者が変わっても守られるべき原則。
- 国家でいう「法律や社会制度」に近い概念。
(例)アマゾン:「顧客中心主義」パナソニック:「社会に貢献する」
3.組織の持続性(Continuity of Organization)
- 企業が存続し続けるための基本的な仕組み。
- 企業が活動を続けるために必要な「資本の仕組み」「継承の仕組み」「意思決定の仕組み」。
- 経営資源(人・資金・オフィスなど)は変わるが、それを支える持続的な仕組みは不可欠。
- 国家でいう「統治機構」に相当。
(例)ファミリービジネスでは「事業承継」、上場企業では「ガバナンス構造」などが該当。
自分自身に対する具体的質問
以上の整理から、まず会社の基礎を見直す準備として、次のような問いを投げかけるのはいかがだろうか。
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「自分の会社の存在意義は何か?」
- 会社が何のために存在しているのか?
- 経営環境が変わっても、これを変えてはならないアイデンティティーは何か。
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「経営の原則は何か?」
- どのような価値観・哲学をもとに経営を行うのか?
- どんな時代でも変えてはならない基本方針は何か?
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「組織が持続するための仕組みはあるか?」
- 企業が長期的に成長し続けるための仕組みを持っているか?
- 短期的な利益ではなく、持続性を担保するための経営をしているか?
これらを考え直すことが、「経営者の意識改革」の第一歩になると考えている。なぜならば、これらは、環境の変化があっても揺るがせてはならないものであり、経営者が改革を進める際にまず見直すべき「基礎」となるからである。
基礎が揺らいでいる場合の具体的な質問
もし、この「基礎」における意識が揺らいでいるのであれば、このような質問を、更にしてみるのも良いかもしれない。自らの立ち位置を見直すきっかけにつながるはずだ。
存在意義(Purpose / Identity)が揺らいでいる場合
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「自社の存在意義は何か?」
→ 私たちは何のために存在するのか?
→ 私たちの会社がなくなったら、誰が困るのか? -
「5年後、私たちはどんな社会的価値を提供していたいか?」
→ 単なる利益の追求ではなく、社会・業界・顧客に対してどんな影響を与えたいのか? -
「競合他社と何が違うのか?なぜその違いが重要なのか?」
→ 私たちの強み・独自性は何なのか? -
「社員に『会社の存在意義は?』と聞いたら、明確に答えられるだろうか?」
→ 社員が会社の意義を理解していなければ、それは経営者がまだ十分に伝えきれていない可能性がある。
経営原則(Core Principles)が揺らいでいる場合
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「どんなに利益が上がる提案でも、絶対にやらないことは何か?」
→ 企業には譲れない価値観・信念があるべき。短期利益のために信念を曲げていないか? -
「創業当時の経営理念や方針は、今も変わらず守られているか?」
→ 時代に合わせた進化は必要だが、経営の本質がブレていないか? -
「社員が日々の業務で意思決定をする際、指針となる価値観が明確にあるか?」
→ 迷ったときに判断基準として機能する経営原則があるか? -
「新しい事業や取引を決定するとき、経営原則に照らして検討できているか?」
→ 拡大・成長を優先するあまり、企業としての軸がぶれていないか?
組織の持続性(Continuity of Organization)が揺らいでいる場合
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「この会社は、自分がいなくても存続できるか?」
→ 経営者が現場に依存しすぎていないか? -
「後継者を意識した組織作りをしているか?」
→ 経営者・リーダーが交代してもスムーズに引き継げる体制があるか? -
「5年後、この会社はどのように運営されているか?」
→ 長期的なビジョンと組織運営の仕組みが整っているか? -
「事業の継続性を担保する仕組み(資本・ガバナンス・人材育成など)は整っているか?」
→ 財務・資本の持続性、人材の育成・採用、意思決定のプロセスが機能しているか? -
「外部環境の変化があった場合、どこまで変えられて、どこは変えてはならないのか?」
→ 変革の余地と守るべき基盤の線引きができているか?
基礎が揺らいでいる場合の対応
もし、これらの質問に対して、明確な答えが出せない場合、それは会社の基礎(存在意義・経営原則・組織の持続性)が揺らいでいて、組織内に浸透されていないというサインとも捉えられる。その場合は、下記のような方法をおすすめする。
1.NOを探る
弊社は、何か問題が発生したらそれは当事者の意識に何かしらの抵抗があるからだと整理している。そして、そうした抵抗は、人間であれば誰でも部分的に持っている。あなたの中に、これらの基礎における整理をしていた際、何かしらNOはなかっただろうか?
- これを行う意味が分からない
- 自分なりに整理しているけれど、共有できる相手がいない
- やったところで会長からNOされる
- 社員に浸透するイメージが持てない
などが当てはまりやすいNOのイメージだ。
話を戻すが、「国家の三要素・動かしてはならない基礎」は共通認識があるから成り立っている。例えば、他東南アジア全域までも日本の領域だと思っている人は、今の時代は殆どいないし、日本という国籍があり、日本の領域で生まれた人が「私は日本人ではない」とは中々言わないだろう。
では「企業の動かしてはならない基礎」も、共通認識がないと、企業として強固に成り立つことが難しい。であるが故に、共通認識を取ろうとする際に出てくるNOを探り、それをYESに変えていく意識の転換が重要になってくる。
2.共有できる仲間を1-2人探す
方針発表等で全体に伝達することは当然行うべきだが、それで社員一人ひとりの反応がわかるか?というと、分からないだろう。経営者自身もこの基礎を固めることに悩んでいて、それについて相談できる相手が1人でも見つけることが大変重要である。
なぜならば、集団とは、2名から生まれるからだ。
これは社内外、かつ役職の上下は問わずに探して、問題ないと考える。とにかく現状を共有をし、その仲間から1人・2人と集まってくることが大切だ。しかし、基礎が定まらない状態では、3名程度で話し合うことをおすすめする。
ある程度固まってきたら、この「会社における動かしてはならない基礎」に対する、あなたの意識改革は一旦ゴールを迎える。
不完全なところを発見し、変える権限を与える
続いての挑戦は、具体的な実践に向けた取り組みである。今回深めていった「基礎」とのつながりの有無を評価の基準点として、下記の要素を整理してみると不完全な要素が出てくるはずだ。
どこが不完全なのかを見極める
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基礎(存在意義・経営原則・組織の持続性)と、実際の運営とのギャップを洗い出す。
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「会社の理念は〇〇だが、現場では△△が優先されている」
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「意思決定の基準として××が掲げられているが、実際には異なるルールがある」
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「組織の持続性を高めるために△△を導入するべきだが、動きが取れていない」
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社員や管理職からのフィードバックを集める。
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1on1ミーティングやアンケート、ディスカッションの場を設ける。
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「この会社の基礎を、どこまでなら実践できるか?」を社員に直接聞く。
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「理念と現場の状況にギャップがある部分はどこか?」を管理職にヒアリングする。
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変革の権限と問いを与える
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事業責任者に「会社の理念と現場のギャップをどう埋めるか?」をという問いを与え解決を委任する。
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経営者だけが変革を推進するのではなく、現場の意識改革を促すために、解決策を考えられ、実行できる権限を与える。
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事業責任者は「この基礎を実現するために、現場でどんな取り組みができるか?」を自らが考えて実行できたら、次はその問いを、各部門のリーダーに考えさせる。
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役職や部署に関係なく、改善のアイデアを募る文化を作る。
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「この会社の基礎に沿っていないと感じる部分はあるか?」という問いを定期的に投げかける。
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それに対して具体的なアクションを提案し、実行に移せる仕組みを作る。
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「基礎」と現実のギャップを調整する
- 実情と照らし合わせながら、調整可能領域と不可能領域を分ける。
- すべて「基礎」とつながることが難しいのは当然であるため、今、どのような調整をするべきで、3年後までにどのような状態にするのかの目論見を立てる
- その目論見を事業責任者に共有をし、その上で「どうしたら目論見通りに向かえるのか?」を考えて、更に現場と調整を行う
また、このような流れを組んでいくことで、当然経営者である、あなた自身の抵抗値「NO」が発生する。実はこれが、意識改革が社長以下に浸透しないポイントなのだ。
不完全性を許容できるか?
どうしても、あなた自身のほうが経験値も高く、事業責任者よりも「見えていて」「分かっている」と思っているのではなかろうか。そうすると、変革における理想値が高くなり、そのステップも、あなたからみたら3段階だが、事業責任者からみたら10段階になっているかもしれない。
そうした、「相手の不完全性を許容できるか?」「自身の役割に集中できるか?」があなたが取り組みべき意識改革の課題となる。そのような課題を取り組むために、下記のような質問を自身に行うことをおすすめする。
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「現在の基礎は現状に適応しているか?」
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企業の成長や外部環境の変化に合わせて、基礎の運用方法を見直す必要があるか?
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組織文化やビジョンが、当初の設計意図と乖離していないか?
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「現場が自主的に動ける余地をどこまで与えているか?」
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変革の権限を与えるだけでなく、現場が自ら考えて行動できる状況を作れているか?
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「私が決める」ではなく、「彼らが考えて決める」仕組みがあるか?
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「役割を超えた介入をしていないか?」
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経営者が無意識に現場の問題を直接拾いにいっていないか?
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部下の業務領域を尊重し、過度な介入を避けられているか?
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「部下を過大評価・過小評価していないか?」
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期待値が高すぎて、実力以上の責任を押し付けていないか?
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逆に、過小評価して本来任せるべきことを経営者が抱え込んでいないか?
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「不完全な状態でも進められるか?」
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完璧でないからといって、行動を止めていないか?
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80%の完成度でも市場や組織にインパクトがあるなら、実行する勇気を持てるか?
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「会社の基礎に沿っていない事業や取り組みが放置されていないか?」
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事業の継続性や方向性に反しているにもかかわらず、曖昧な理由で続けている活動はないか?
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それを見直す勇気を持てるか?
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「意識改革を促す環境を整えられているか?」
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変革を妨げる要因(会議の進め方、評価基準、組織文化など)を見直せているか?
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社員が安心して意識改革に取り組める場を作れているか?
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結局のところ、相手の不完全性を許容するということは、自身の不完全性を許容することになる。それは、一見、とても怖いことのように思えるかもしれないが、実は可能性を広げるものだということを断言する。
人間は、1人ではご飯も食べることができないし、当然家に住むこともできない。あなたの会社でもそれは変わらないだろう。それであるならば、営業一つとっても多種多様な契約の取り方があれば、多様な顧客とのコミュニケーション方法がある。
もちろん、誰でも会社に採用するべきではないので、自社としての基礎は保ちながらも、個別具体的な面で、自身の特別性・完全性を示すことは、こと企業運営においては、あまり得にならない(これは家族運営でもそうだが・・)。
だいぶ大雑把ではあるが、これらの質問を自分自身に通しながら、権限委譲を進めていくことで、「不完全なところを改めて変える」という経営者の意識改革は一旦ゴールを迎えることになる。
まとめ:意識改革は「完成」するものではない
本稿では、経営者の意識改革が企業の変革において不可欠であることを論じてきた。しかし、意識改革は、ある時点で完了するものではない。むしろ、それは継続的な問い直しのプロセスであり、経営者自身が自らの思考や行動を見直し続けることが求められる。
また、ここで忘れてはならないのは、「すべてを一気に実践する必要はない」ということである。完璧な意識改革を目指すのではなく、小さな行動を積み重ね、気づきを増やしていくことが大切である。
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まずは、10分だけ基礎について考える時間を作る。
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まずは、1人の社員と対話の機会を設ける。
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まずは、1つの意思決定を任せてみる。
この小さな一歩を積み重ねていくことで、経営者自身の意識が変わり、結果として組織全体の意識改革へとつながっていく。
今回は、経営者自身の意識改革にスポットライトを当てて、知見を書いてきた。もし、意識改革の全体像について興味があれば下記の記事も参考にしていただけると嬉しい。
意識改革とは、「企業や組織を変えるためのもの」ではなく、「経営者自身が変わることで、結果として企業が変わるもの」なのである。あなたが今、本稿を読んでいただき、問いを自らに投げかけ続けることで、企業の未来は大きく変わっていくことを我々は確信し、応援している。