本当に成功する意識改革とは?失敗と成功の分岐点を探る

企業経営において「意識改革」はしばしば成長の鍵とされるが、実際にはその多くが失敗に終わっている。経営者は意識改革を推進しようと声を上げるが、その根本的な要因が見過ごされていることが多い。表面的な制度変更や数値目標の達成に終始し、組織全体の意識を真に変えることができないのが現状である。本稿では、意識改革の役割と、その歴史を振り返りながら、成功と失敗を分ける要因を具体的に掘り下げる。

意識改革とは「役割の再定義」である

意識改革とは、単に個人の思考や行動を変えることではなく、組織における役割の再定義を通じて、新しい目標や環境に適応するプロセスである。役割の再定義がなされることで、組織の構造や行動が変化し、結果として意識そのものが変わる。

どうしても人は「組織とは」「会社とは」「管理職とは」「営業とは」などの前提を自分自身に強いており、その前提から、制度・組織・技術・行動における評価指標ができあがっていく。そして、この影響力を最も持っているのが、組織のトップとなる経営者である。親子関係で例えれば分かる通り、子どもが親の価値観を吸収して育つように、社員は社長の価値観を吸収して育つ。これは入れ子構造になっているため、当然、上司部下の関係も同様で、一般社員は少なからず社長の価値観に影響を受けるが、直接影響を受けるのは直属の上司だということだ。

我々が、「経営者の意識改革から組織の成長ストーリーが紡ぎ出される」と伝えているのは、こうした理由からだ。この観点に立ったときに、、各役割における再定義を行うことが、意識改革の第一ボタンだと言える。このように、意識改革の根本は「役割の再定義」であり、組織の成長を促す重要な要素となる。

「役割の再定義」がもたらす変化

では、役割の再定義は、組織全体にどのような変化をもたらすのか。これを理解するために、以下の3つのポイントに注目する。

新たな市場開拓先を見つけられる

例えば「A社の下請け先の弊社」から「A社と顧客のハブとなる弊社」と役割を変えたときに、どのようなナレッジが、無自覚に溜まっていたのかが見えてくる。このケースであれば、顧客との会話を通して、A社が行おうとしている商品・サービスに対して提案・提言ができる可能性も出てくる。

このようにして、役割を見直し、再定義をすることで、今までみることがなかった景色をみる機会を得られ、可能性を広げることができる。

    組織のコミュニケーションが変化する

    例えば「ただ商品を売れば良い営業」から「顧客の課題解決パートナー営業」と役割を変えたときに、商品が顧客にどのように届き、どう活用いただけると、より顧客が喜ぶのか?ということを営業は考える。

    更に、商品開発に対して「もっと安くしろ」ではなく「顧客が使い勝手として、このようなサービスを望んでいるが可能か?」というディスカッションが行われるため、組織のコミュニケーションの次元があがっていく。役割の再定義によって、思考が変わり、コミュニケーションが変わるのだ。

    成果の創出プロセスが変わる

    特に経営者に言えることなのだが、役割の再定義をするということは、「今までの役割を手放す」ということでもある。実践的な例えをすると、新任社長が、自身の事業開拓方式、販売方式を一旦手放して、事業本部長にその役割を譲るということも、役割の再定義から生まれる変化である。

    すると、事業本部長の成果創出プロセスのイメージから、成果が生まれる。これは、今まで、新任社長であるあなたが、どう頭を捻らせてもできなかった成果の創出プロセスとなる。このことを中々歓迎できないのは、人間の特性でもあるが、役割を再定義することで、自身の役割を受け入れ、そのプロセスを歓迎することで、組織の成長につながるのだ。

    日本における企業の意識改革の歴史

    「役割の再定義」を通じた意識改革は、単なる思考や行動の変革に留まらず、組織全体の成長を促す原動力となる。しかし、この概念は決して新しいものではなく、歴史の中で様々な形で企業に取り入れられてきた。

    日本企業における意識改革の取り組みは、時代ごとの経済環境や社会の変化によって、その方向性が異なってきた。戦後の高度経済成長期、バブル経済とその崩壊、グローバル化、そして働き方改革やSDGsといった近年のトレンド——これらの歴史的変遷を振り返ることで、意識改革がどのように組織の在り方を変えてきたのかを理解できる。

    この章では、日本における企業の意識改革の歴史を振り返りながら、各時代の背景とそれに伴う変革の方向性を詳しく見ていく。

    1. 戦後の高度経済成長期 (1950年代〜1970年代)

    • 背景: 戦後復興の中、効率的な生産体制と組織力の強化が求められた。

    • 意識改革の焦点: 従業員の生産性向上を目的とした「社員教育」「企業内研修」が主流であった。

    • キーワード: 経済合理性、集団主義、終身雇用制。

    2. バブル経済とその崩壊 (1980年代〜1990年代)

    • 背景: バブル経済の最盛期には労働力不足が深刻化し、社員の意識改革が必要であった。崩壊後は企業の存続をかけた組織改革が進んだ。

    • 意識改革の焦点:

      • バブル期: 「意欲的な社員づくり」や「自己啓発」が重視された。

      • 崩壊後: コスト削減やリストラクチャリングを伴う「組織改革」に焦点が置かれた。

    • キーワード: 組織改革、リストラクチャリング。

    3. グローバル化と情報化社会の進展 (2000年代)

    • 背景: グローバル競争とIT普及により、柔軟性とスピードが求められるようになった。

    • 意識改革の焦点: 自己責任、プロアクティブな行動が強調され、新たな概念であるダイバーシティやエンゲージメントが注目された。

    • キーワード: グローバル競争、ダイバーシティ、エンゲージメント。

    4. 働き方改革とSDGsの時代 (2010年代〜現在)

    • 背景: 少子高齢化、労働力人口の減少、SDGsへの取り組みが進む中で、企業における意識改革が重要視されている。

    • 意識改革の焦点: サステナビリティや社会貢献活動を通じた社員の意識改革、そして働き方改革が主要なテーマとなっている。

    • キーワード: サステナビリティ、働き方改革、心理的安全性。

    この歴史を振り返ると、多くの企業が実行してきた具体的な改革は「制度改革」が中心だったと言える。これは、外部環境や時代の要請に応じた対応策として、会社の役割を見直し、行ってきた改革の結果である。ただ、このプロセスは、必要不可欠なものであった。なぜならば、「制度改革」の土台の上に、現代の課題である「意識改革」のニーズが表出してきたからだ。

    例えば、現在の働き方改革においても、制度は整いつつあるものの、数値的な目標(例: 女性役員・管理職登用比率を上げる)達成を進める一方で、家事や育児との両立を、物心ともに支援するチームづくりには至っていないといった事例が挙げられる。これは「女性管理職」という役割を、部分的でしか捉えておらず、ライフスタイルの観点から「女性管理職」の役割を再定義しなければ実践的な改革へと進むことができない。

    つまり、制度改革を通して、制度の整備や基盤作りを担うことで、意識改革の実現に必要な環境が整うという補完関係が存在する。この段階的なプロセスを理解し、適切に実行することが、組織変革を成功へと導く鍵となる。

    制度改革と意識改革の必要性

    では、貴社は現在、何から着手すればよいのだろうか?具体的な話に入っていくためにも、それぞれのステージでの、各々の改革が必要な企業の特徴をまとめた。

    制度改革が必要な企業

    • 特徴: 基本的な制度や仕組みが整備されておらず、組織基盤が未成熟な状態にある企業。

    • 目的: 短期的に効率化を進め、環境変化に迅速に対応する。

    • 実施理由: 基盤が未整備のまま主体的な意識改革を進めると、社員が過度な負担を感じ、疲弊する可能性が高い。

    • 具体例:

      • 社員が働きやすい環境が整っていない。

      • 評価制度やキャリアパスが曖昧である。

    • アプローチ: 制度改革や業務プロセスの見直しを優先し、組織の土台を整備する。

    意識改革が必要な企業

    • 特徴: 基盤が整備されており、次の成長段階に進むために、社員の自主性や創意工夫を促す必要がある企業。

    • 目的: 独自の価値観やビジョンを実現し、持続可能な成長を目指す。

    • 実施理由: 制度が整っているにもかかわらず、社員が受動的な姿勢を続けている場合、組織全体の成長が停滞する。

    • 具体例:

      • 社員間のコミュニケーションが不足している。

      • そもそも社長だけがビジョンのイメージがあり、役員に浸透していない。当然、社員にも浸透していない。

    • アプローチ: ワークショップや内発的動機を引き出す施策を通じ、社員の主体性を高める。

    なお、弊社が得意としている分野は「意識改革が必要な企業」に対するアプローチである。制度改革が必要な企業においては、まず「自社にとって必要な制度が何なのか?」を「標準化」という観点から、競合他社の採用ページ等をご覧になり、欠けている制度等について相対比較をしながら、ディスカッションすることをおすすめする。

    では、ここまでを通して、意識改革のメリット・デメリットをまとめると下記のようになる。

    意識改革のメリット・デメリット

    メリット

    1. 組織の柔軟性向上:外部環境の変化に迅速に対応できる。

    2. 社員のモチベーション向上:自発的な行動や創造性を促進する。

    3. 競争力の強化:社員一人ひとりの意識変革が企業全体のパフォーマンス向上につながる。

    デメリット

    1. 組織内の硬直化:外部環境の変化に、ますます対応できなくなる。
    2. 社員のモチベーション低下:制度的な動機づけが必要なのに、内発的動機を促されてモチベーションが低下する。

    3. 競争力の低下:経営層と経営層以下との認識ギャップが更に大きくなり、組織としての競争力がなくなる

    これをご覧になっても分かる通り、メリットとデメリットは表裏一体であり、どのタイミングで行うかが重要ということだ。

    では、続いて、意識改革の成功と失敗の分岐点について、事例を交えながら紹介していきたい。

    成功と失敗の分岐点

    意識改革が成功するか失敗するかを分ける最大の要因は、2つある。

    1. 公平な現状認識が行われること
    2. 現状認識からくる課題感をブラさないこと

    表現が異なるが、同じことを伝えている。それぞれ簡単に説明をしていく。

    公平な現状認識が行われること

    あえて「現状分析」と言わない理由は、自社が数値や事実に基づいた分析をしても、それをどのように捉えているかによって、事実に歪みが発生し、変革の方向性がズレることが大いにあるからである。

    特に意識改革においては、単に行動をA→Bに無理やり変えるのではなく、事実に対する、なるべく公平な認識を一人ひとりに共有することが求められるため、現状認識を正確に捉えられない限り、第一ボタンがかけ違えてしまうのだ。

    現状認識からくる課題感をブラさないこと

    公平な現状認識からくる課題感は、間違いなく、未来の企業にとって、必要な課題感である。しかし、目の前の課題に飛びつくがあまり、目的を見失い、せっかくできた現状認識とは異なる課題に集中してしまうことがある。

    これでは、意識改革の本来の目的とズレてしまい、もともと一本道だったのに、自ら迷路に入って迷子になっているようなものである。実際に失敗したケース、成功したケースをご紹介したい。

    成功事例・失敗事例

    失敗事例の概要

    A社はとある業界の、2次受け、3次受けの企業であった。まだ歴史の浅い業界でもあり、平均年齢がだんだんと上がっていくに連れ、現状のビジネスモデルでは収益構造が頭打ちの状態になりつつあり、人件費とのバランスが保てない予測が立っていた。

    そこで中期経営計画書には、その予測に基づき、現状は増益増収でありながらも、収益構造をチェンジするための9ヶ年計画を立ち上げ、教育・研修費用を増幅する戦略を掲げ、次世代リーダーを選抜し、長期トレーニングを行った。

    しかし、選抜された次世代リーダーが収益構造をチェンジするための役割と仕事を、現場で行おうとすると、上司からSTOPがかかってしまう。具体的には、新たなアップセル・クロスセルを通して顧客と契約直前になったにも関わらず、自社で商品・サービスの供給ができないため、他社に契約を取られるといった内容である。更に、役員層も、この状況を共有しても危機感がなく「この業界ではよくあること」と片付けてしまっていた。

    挙げ句、選抜された次世代リーダーの一部メンバーを、上司および役員層が、中経の目的に沿っていない、短期的な視野に基づく配置転換をし、メンバーのモチベーションが下がってしまった。

    解説

    もちろん、上司も、役員層も、よかれと思って、自らの経験に基づき、STOPをかけている。しかしながら、中経に基づいていないことは一目瞭然である。これもまた、土台として行ってきた2次受け・3次受けのビジネスモデルがあったからこそ、新たなチャレンジをしているため、今までと評価基準や行動内容が全く異なるのだが、その自覚(マインドチェンジ)が経営層から落ちていないため、このような形になってしまった。

    どうしても、今まで行ってきたことと、これから行うことへの認識が「対立関係」で見えてしまっており、そうすると、どちらか一方が正しい・正しくないの議論に終止してしまう。しかし「補完関係」から見ることで、互いの役割と意義を議論するようになり、前進していく。

    続いて、成功したケースをご覧いただきたい。

    成功事例の概要

    B社は、ある分野のBPOにおいて重要な役割を示している会社である。そのため、約30年間はアライアンスがなくなることなく、数社からの収益に基づきビジネスが回っていた。しかしコロナ禍をきっかけにそのアライアンスが崩れ、守りから攻めに転じざるを得なくなっていた。

    しかし、配置転換・テレワークの導入・評価基準の変更など、施策を通して刺激を加えてみるものの、変化した状況に合った行動変容が起こらず、マインドチェンジが起こらずにいた。

    そこで、まず祖業である事業部に対して、本部長のコーチングからスタートし、B社の方向性と本部長のイメージを合わせながら、メンバーに落とし込むような形で、コンサルティング及び長期トレーニングを行った。

    結果的に、創業以来初めて、ある事業所で数千万規模の、新規BPOの受託準備を整えることができ、生産性の向上が数値的にも可視化された。この事例については、成功事例として紹介している。よかったらご参照いただきたい。

    解説

    この成功のキーマンは、間違いなく本部長である。まず、コーチングを通して、本部長のイメージの中に「今までの仕事」と「これからの仕事」のイメージが明確に区分けされていった点が大きい。しかし、目の前の課題解決をしようとするがあまり、本来行おうとしていた意識改革とは異なる選択・判断をしそうになっていたが、弊社育成パートナーとのコミュニケーションを通しながら、自制しつつ、本来の意識改革を行う仲間を一人・二人と集めていく姿が印象的であった。

    ある事業部の新規受託が成功したという事例が生まれたのは、意識改革を始めて1年くらい経った頃のことである。それまでも、紆余曲折があったものの、初心に戻り、課題感をブラさずに、実践をし続けていけたからこそ、生まれた成功であった。


    具体的な意識改革の方法

    以上を踏まえて、弊社では、以下の方法を経て主体的な意識改革を実現している。

    課題の洗い出し

    まずは、意識改革を先導したい方からヒアリングを行う。大体は、事業部の本部長、もしくは社長が登場する。ヒアリングの内容としては下記の通りである。

    • 企業の成り立ち
    • 今までの歴史から発生した現状の課題
    • 先導したい方と、周囲の方々との関係性
    • 今までの改革の試みの成否
    • 意識改革を行った事による見通し など

    全体プランの設計

    状況を伺ってから、予算感も含めて全体設計を行う。ここで必ず提案するのは、「先導者のコーチング」である。先述した、意識改革の成功と失敗の分岐点は、先導者の選択と判断が最も重要だからだ。少し話が脱線するが、我々がなにかInputを行うような指導型のコーチングではなく、我々の質問を通して、先導者がOutputをするような、質問型のコーチングのため、色々と気付きが多いと好評をいただいている。実際、コーチングの時間は、笑いが絶えないのが弊社の特徴かもしれない。

    話を戻すと、ヒアリングを通して、先導者のコーチングだけでなく、今、意識改革が必要な対象者に対して適切なトレーニングを長期的に行っていく。その全体設計のプランニングを行う。

    定期的な見直し

    意識改革のプロセスは、定期的な見直しが重要である。実際、弊社の意識改革におけるトレーニングは、トレーニング中の受講者の発言録やアンケートに基づいて、都度、見直しをかけており、毎回フルオーダーで行っている。
    そうしないと、意識改革の目的を、全体が見失ってしまうからである。コーチングも同様だが、まるで重力のように、先導者の意識改革に基づき、質問を与えて意識を変化するようなことを行っている。

    成果の可視化と共有

    この3つのプロセスを行っていくことで、最終的な成果の可視化については、顧客企業から発見していただけることが多い理由は、意識改革の目標を定量的にしているためだ。弊社は、受講者の状況をアンケートで確認し、定性的な解析をするものの、定量的な成果(例:売上向上・メンバーの普段の仕事での発言が変わった)は、やはり当の本人が実感することが重要だと感じている。

    そのため、中間報告・最終報告という形で報告をしながら、現状をお互いに把握するようなプロセスを踏んで、また次のステップへ向かうようなやり取りを行っている。

    経営者自身の意識改革の方法について書いた記事もあるので、こちらも参照いただけると解像度が上がるかもしれない。

          おわりに

          企業における意識改革は、時代や外部環境の変化に応じた制度改革を土台としながら、その先に主体的な意識改革を実現していくことが求められる時代に突入している。制度改革は基盤作りとして不可欠であり、これが整うことで、役割の再定義の必要性が生まれ、社員一人ひとりの主体的な変化を引き出し、組織全体としての真の成長が可能となる。

          一方で、意識改革の成否を分けるのは、経営者や先導者の現状認識の正確さと、課題感を揺るがせない一貫性である。本稿で取り上げた失敗例と成功例からも明らかなように、過去の実績や経験に囚われることなく、改革を進める姿勢が鍵を握っている。

          弊社では、経営者やリーダーと共に現状の課題を洗い出し、具体的なプロセスを設計しながら、組織全体の意識改革を伴走型で支援している。これには、先導者へのコーチングをはじめ、参加者の内発的動機を引き出すトレーニング、定期的な進捗の見直しと成果の可視化が含まれる。

          意識改革は一朝一夕に成し遂げられるものではないが、適切な土台作りとプロセスを経ることで、組織の力を、確実にかつ次元の違うレベルに引き上げることができる。

          本稿が、貴社の意識改革を成功に導くための一助となれば幸いである。

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